嗤う分身

嗤う分身

11月8日(土)公開予定 シネマライズ

自分そっくりの男が自分の生活を奪っていく

 サイモン・ジェームズは目立たず影の薄い男だ。仕事はできる方だが、存在感がないので功績が認められることはない。会社に勤めて7年になるのに、いまだに受付係からは名前も顔も憶えてもらえない。そんな彼にとって唯一の慰めは、同じ会社でコピー係をしているハナの存在だった。彼女はサイモンの向かいの部屋に住んでいて、彼は日ごと夜ごとに望遠鏡で彼女の部屋を眺めている。彼女も自分と同じ、孤独な心を抱えた人間なのだ。それを彼だけが知っている。だがある日ハナの様子を見ようと望遠鏡をのぞいたサイモンは、建物から飛び降り自殺する男の姿を偶然見てしまう。彼もまた、サイモンと同じように孤独を抱えた男だったのか……。それからしばらくして、会社に新人社員が入ってきた。彼の名はジェームズ・サイモン。社交的で上司や同僚のウケもよく、女性にもモテモテの男。だが彼の顔は、サイモン・ジェームズに瓜二つだった。彼はいったい何者なのか?

 原作はロシアの文豪ドストエフスキーの「二重人格」だが、映画はそれをレトロフューチャーな近未来世界に置き換えている。近未来世界と言っても、ここに登場する世界は我々の暮らす世界とは切れた別の世界だ。映画ファンならここから、『1984』(1984)、『未来世紀ブラジル』(1985)、『ロスト・チルドレン』(1995)といった作品を連想するかもしれない。本作の美術は、明らかにこれらの先行作品から強い影響を受けている。監督は『サブマリン』(2010)のリチャード・アイオアディで、本作が長編2作目。主演は『ソーシャル・ネットワーク』(2010)のジェシー・アイゼンバーグと、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)のミア・ワシコウスカ。劇中で突然、坂本九の「上を向いて歩こう」や、ジャッキー吉川とブルー・コメッツの「草原の輝き」「ブルー・シャトウ」が流れ出す場面があるが、これは監督の趣味だとのこと。

 映画は「サイモン・ジェームズ≒ジェームズ・サイモン」という二重性があらわになる後半から面白くなるが、それまでは話がなかなか転がり出さないのが難点だ。映画の最初に主人公が地下鉄から降りられなくなったり、会社には入れなくなってしまうエピソードがあるが、こうしたエピソードがあったとしても、物語自体は先に進んでいかなければならない。しかしこの映画では、主人公の足踏みに合わせて映画自体が停滞してしまうのだ。上映時間1時間半ばかりの短い映画なのに、前半がもたついてやたら長く感じる。滑走路を走り出した飛行機がなかなか離陸しないまま、いつまでも滑走路を走り続けているようなフラストレーションを感じるのだ。映画終盤は物語が加速していくが、そこにある世界はドストエフスキーと言うより、デヴィッド・フィンチャーの『ファイト・クラブ』(1999)だろうか。楽しい映画ではないが、忘れがたい印象を残す作品になっている。

(原題:The Double)

シネマート六本木(スクリーン3)
配給・宣伝:エスパース・サロウ
2013年|1時間33分|イギリス|カラー|1.85:1|ドルビーデジタル
公式HP:http://waraubunshin-espacesarou.com
IMDb:http://www.imdb.com/title/tt1825157/

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