ミンヨン 倍音の法則

ミンヨン 倍音の法則

10月11日(土)公開予定 岩波ホール

音楽と映像による佐々木昭一郎の世界

 ミンヨンは小説家を目指している。日本語と英語を流暢に話し、現在は語学力を生かして通訳の仕事が中心の生活だ。最近彼女の心をとらえているのは、祖母が残した1枚の写真。そこには祖母の親友だった日本人、佐々木すえ子の家族が写っている。いつか日本で、すえ子の足跡をたどってみたい。そう願うミンヨンを、仲の良い妹ユンヨンが後押ししてくれた。ミンヨンも日本へと旅立つ。そこで再会したのは、日本留学時代に親友だった旦部だ。ジャーナリストの彼は危険な取材をしていたせいで、いつも何者かに追われている。街で靴磨きをしている少年ユウも、ミンヨンや旦部と一緒に行動するようになった。だがミンヨンは、旦部が取材先で暗殺されたことを知る。同じ頃、彼女はすえ子の住んでいた家を探し当て、その人生を追体験し始める。その幻想の中で、ミンヨンはすえ子になり、戦争に批判的なジャーナリストの夫は旦部、息子はユウになっているのだった……。

 NHKのドラマ演出家として、ピアノ調律師・栄子を主人公にした「四季・ユートピアノ」(1980)や、「川の流れはバイオリンの音」(1981)に始まる「川・三部作」などの作品を作った佐々木昭一郎が、NHK退局から20年を経て完成させた長編劇場用映画デビュー作。佐々木作品は放送の世界で国際的な評価が高く、作品は国内外で多くの賞を受賞している。NHK内部でも他のドラマ作品とは別格で、「あの佐々木昭一郎の新作!」のような鳴り物入りの宣伝で放送されていたような記憶がある。僕自身は佐々木作品の熱心なファンではなかったが、「川・三部作」ではヒロインの旅という虚構の設定を通して、フィクションともドキュメンタリーともつかない不思議な映像と音の世界が展開していた印象が残っている。そうした佐々木作品のタッチは、この映画でも健在だ。本作では膨大な音楽と歌で画面が埋め尽くされ、映画の主要なモチーフになっているのだ。

 ストーリーを追うのは難しい。この映画の中では、時間と空間が軽々と飛躍していくのだ。日本語と韓国語と英語。日本と韓国。現在と過去。夢と現実。タイトルに「倍音の法則」とあるが、「倍音」とはピアノのドの音を鳴らすと共鳴し合うミやソやシの音のこと。ひとつの音が、別の音を引き出すわけだ。これが倍音の法則。この映画はミンヨンというひとりの女性の存在が、そこから派生するさまざまな出来事を引き出していく。ひとつの言葉が、別の言葉を引き出す。ひとつの出来事が、別の夢想を引き出し、夢想がさらに新たな現実を引き出す。すべてはつながり、ひとつの世界の中に同居している。モーツァルトの交響曲は、「早稲田の栄光」や「東京節」とつながっているのだ。

 映像と音楽によるつづれ織りのタペストリー。2時間20分は見応えがあるが、普通の映画ではないので(普通の映画って何だ?というご意見もあるでしょう)、好き嫌いが分かれるだろう。

映画美学校試写室にて
配給:シグロ 宣伝:テレザ、サニー映画宣伝事務所
2014年|2時間20分|日本|カラー|16:9|5.1ch
公式HP:http://www.sasaki-shoichiro.com
IMDb:http://www.imdb.com/title/tt3947210/

創るということ
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