記憶探偵と鍵のかかった少女

記憶探偵と鍵のかかった少女

9月27日(土)公開予定 新宿ピカデリーほか全国ロードショー

足を踏み入れた場所は記憶の迷宮

 記憶探偵という仕事がある。依頼人の記憶の奥深くに分け入り、当人すら忘れていた記憶を引き出して犯罪捜査などに役立てる特殊な職業だ。ジョン・ワシントンは記憶探偵の大手マインドスケープ社のベテラン調査員だが、調査中に起きた事故でしばらく現場を離れていた。久しぶりの現場復帰で担当を命じられたのは、16歳の少女アナの調査。当面の目標は彼女の拒食症を治すことだが、アナの記憶を引き出したジョンは彼女の周囲に陰惨な出来事が数多く隠されていることを知る。継父の不倫とアナに対する虐待。母から傷つけられたこと。学校でのイジメ。教師による性的虐待。寄宿舎での殺人未遂事件。現在アナは両親の完全監視下に置かれ、継父は彼女を施設に送り込もうとしている。「継父は財産目当てでわたしを陥れようとしているのよ!」というアナの言葉に嘘があるとは思えない。だが彼女の証言を裏付ける物的証拠は何もない。頼りになるのは記憶だけだった。

 監督のホルヘ・ドラドはこれが長編デビュー作だが、ムードたっぷりの絵作りや語り口は一見の価値がある。あえて35mmフィルムで撮影したという画面には密度と確固たる存在感がありながら、この映画の中ではすべてが儚く頼りなく疑わしいという両義性を帯びている。撮影はスペインを中心に行われたようだが、主演のマーク・ストロングをはじめイギリス人キャストを主体にした英語作品として作られている。ヒロインのアナを演じているのは、主要キャストの中で唯一アメリカから参加したタイッサ・ファーミガ。この映画に弱点があるとすれば、それは彼女のキャラクターに説得力がないことだろう。同じように魔性の女子高生を演じていても、『渇き。』(2014)の小松菜奈には遠く及ばない。観客の多くはアナが画面に登場した瞬間から、彼女にある種の危険さを感じ取るだろう。主人公ジョンが彼女に対してあまりに無防備なことが、少し間抜けに見えるのだ。

 SF的な記憶探偵という存在を持ち出しながら、物語の組み立ては結構本格的なミステリー映画になっている。「記憶探偵なんて荒唐無稽な絵空事だ」と感じる人もいるだろうが、絵空事ということなら、映画やドラマの中に出てくる私立探偵だって似たようなものだろう。それどころか刑事ドラマの中に出てくる警察も、ほとんどは現実離れしたいい加減な描写になっているのだ。ミステリー映画では過去の記憶を証言として描き、それを視覚化するという手法がこれまでも普通に使われてきたわけで、記憶探偵というアイデアはそのバリエーションのひとつと考えた方がいい。これは面白くて魅力的なアイデアなので、マインドスケープ社の記憶探偵たちが他にどんな難事件を解決していくかを、テレビシリーズなどで連作して行けるかもしれない。

 有名俳優の出るハリウッド映画ではないので地味な印象ではあるが、この映画にはこの地味さが似合っているような気がする……。

(原題:Mindscape)

アスミック・エース試写室にて
配給・宣伝:アスミック・エース パブリシティ:アルシネテラン
2013年|1時間39分|アメリカ、スペイン、フランス|カラー|スコープサイズ|Dolby Atmos
公式HP:http://kiokutantei.asmik-ace.co.jp
IMDb:http://www.imdb.com/title/tt1715336/

ビトレイヤー [DVD]
ビトレイヤー [DVD]

posted with amazlet at 14.09.04
ワーナー・ホーム・ビデオ (2014-04-02)
売り上げランキング: 26,987

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中