馬と人間が共に暮らすアイスランドの生活
11月上旬公開予定 シアター・イメージフォーラム
馬と人間が仲良く暮らすアイスランドの小さな村。中年独身男のコルベインは愛馬グラウーナに乗って、秘かに思いを寄せる子持ちのやもめソルヴェーイグ宅に向かう。彼女もコルベインに好意を持っているが、大人同士の恋はなかなか前に進まない。だが飼い主たちの慎ましい恋に比べると、馬たちはずっと積極的だった。コルベインがソルヴェーイグの家を去ろうと自慢の馬に跨がったところ、彼女の家の牡馬ブラウンが彼を無視してグラウーナに挑みかかってきたのだ。発情してその気になった大型動物の前に、飼い主であるコルベインは為す術もない。コトが終わった後、うなだれて家に戻ったコルベインは馬に別れを告げるのだった……。この事件のせいで、コルベインとソルヴェーイグの関係はぎこちないものになってしまった。彼女はけじめを付けるため、ある決意をする。そして秋。村中が総出で、放牧している馬を集める時期がやって来た。大人の恋の行方はいかに?
映画は馬と人間を巡るエピソードが数珠つなぎに配置されたオムニバス風の構成で、全体の最初と最後をコルベインとソルヴェーイグのエピソードで始めて閉じる構成になっている。この中年カップルのロマンス話も面白いのだが、他のエピソードも面白い。個々のエピソードを短く区切って行くが、これが映画のテンポを生んでいる。複数のエピソードに、少しずつ冒頭の中年カップルのその後のエピソードを散りばめていく。物語を「馬と人間の関わり」という点からのみ描き、登場人物たちの私生活の細部に踏み込んでいかない割り切りの良さ。その結果ほとんどの場面には馬が出てくるのだが、馬自体は芝居をしないので、全体にドキュメンタリーのような臨場感が生まれる。アイルランド馬はサラブレッドなどの競走馬よりずっと背丈が低く、視線の高さが人間と変わらない。これが人間との距離の近さを感じさせる効果を生んでいる。サラブレッドではこの面白さは出ない。
カメラの前で馬がいきなり交尾を始める冒頭エピソードのインパクトが大きいのだが、その後も馬が沖合を航行する貨物船まで人を乗せて往復する様子には驚いたし、若い女があり合わせのナイロンロープを切って即席の馬具を作ってしまうシーンにはたまげた。このエピソードの後に観光客が雪山で凍死しかけるエピソードや、最後に登場する放牧中の馬を集めるエピソードなどを含め、アイスランドには馬と人が共に暮らす西部劇の世界が今も生きている。出演しているのはほとんどがプロの俳優らしいが、全員が巧みに馬を乗りこなしていることに驚かされる。まるで自転車にでも乗るように、巧みな手綱さばきで画面の中を疾走するのだ。
監督・脚本のベネディクト・エルリングソンは本作が監督デビュー作だが、本業は舞台演出家だという。舞台からいきなり屋外に出たわけだが、本作はアイスランドの雄大な景色とそこで生きる馬と人間の対比に絵としての面白さがある。
(原題:Hross í oss)
京橋テアトル試写室にて
配給・宣伝:マジック・アワー
2013年|1時間21分|アイスランド、ドイツ、ノルウェー|カラー|2.35:1|5.1ch
公式HP:http://www.magichour.co.jp/umauma/
IMDb:http://www.imdb.com/title/tt3074732/