フォックスキャッチャー

2月14日(土)公開予定 新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、シネマライズ、シネ・リーブル池袋、品川プリンスシネマ

大富豪の狂気を誰も止めることはできない

フォックスキャッチャー

 1984年のロサンゼルス五輪。レスリングのアメリカ代表選手だったシュルツ兄弟は、フリースタイルの74キロ級と82キロ級でそれぞれ優勝した。だがそのわずか3年後、弟のマーク・シュルツは極貧生活の中でひとり黙々と地味なトレーニングを続けている。スポーツ大国のアメリカでも、レスリングはマイナー競技だ。社交的でコーチとしても一流の兄デイヴと違って、弟のマークは口下手で目立たない存在だった。だがそんなマークに、大富豪デュポン家のジョン・デュポンが声をかけてくる。「オリンピックで勝てる代表チームを作りたい。君が中心になって優秀な選手を集めてくれ。金に糸目は付けない」。レスリング選手にとって、これは夢のような申し出だ。チーム名はフォックスキャッチャー。マークは早速兄のデイヴをチームに誘うが、彼は高額の報酬よりまず家族との生活が最優先だった。デイヴのいないままチームはスタート。これが悪夢の始まりだった。

 大富豪のジョン・デュポンがデイヴ・シュルツを射殺したのは1996年のことだが、映画はデイヴの弟マークの視点で、シュルツ兄弟とデュポンの奇妙に歪んだ関係を描いていく。問題の射殺事件は映画の最後に引き起こされるが、物語の語り手であるマークはその何年も前にチームを離脱してしまう。つまりその後の何年かの間に、デュポンとデイヴの間に何があったのかは、映画にまったく描かれていない。だがそれまでのドラマがあまりに濃密なので、この事件も歪んだ人間関係の延長にある当然の結末に思えるほどだ。監督は『カポーティ』(2005)や『マネーボール』(2011)でも実在の人物や事件を取り上げているベネット・ミラー。マーク・ラファロが気さくでさっぱりしたデイヴを好演しているが、鬼気迫る怪演を見せるのはデュポン役のスティーヴ・カレル。デュポンと出会って人生の歯車を狂わせていくマークを、チャニング・テイタムが好演している。

 財力による狂気の隠蔽が、この映画の描いているテーマだ。これは「デュポン家が金にものを言わせてジョン・デュポンの狂気を隠蔽していた」という意味ではない。周囲の人間たちがデュポンの狂気を目の当たりにしながら、あえてそこから目を背けていたという意味だ。デュポンの周囲の人間にとって、それは決して口にできないタブーだった。誰かがそれを口に出した途端、フォックスキャッチャーは消えてなくなる。それは選手たちにとって、再び極貧生活に戻ることを意味していた。こうして全員が狂気に染まって行く。映画の中で一番ぞっとさせられるのは、デュポンが自分の母の前で「優秀なコーチである自分」を演じ、デイヴたちがその三文芝居に付き合う場面だ。デュポンに命じられるまでもなくそれぞれの役割を演じる選手たちには、既にデュポンの狂気が伝染している。結果としてマークは自分自身の精神バランスを崩し、デイヴは命を落とすことになったのだ。

(原題:Foxcatcher)

松竹試写室にて
配給:ロングライド 宣伝:クラシック
2014年|2時間15分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|5.1ch
公式HP: http://www.foxcatcher-movie.jp/
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt1100089/

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