酒中日記

3月21日(土)公開予定 テアトル新宿

坪内祐三のエッセイを本人出演で映画化

酒中日記

 評論家でエッセイストの坪内祐三は、夜な夜なあちこちで飲み歩く。某月某日、新宿ゴールデン街の酒場の2階で読書会。今は小林秀雄の「本居宣長」を読んでいる。読書会のあとはそのまま飲み会になる。これも会のお楽しみだ。夜は新宿の文壇バーで、編集者の都築響一と飲む。外国人が見てみたい日本の風景や、レーザーカラオケの中にある古い日本の風景の話など話題は尽きない。某月某日、昼間は雑司ヶ谷で永井荷風の墓所に立ち寄り、さらに古書店で本を物色。夜は銀座の文壇バーで、亀和田武と杉作J太郎に会い、場に似つかわしくない怪しい安酒を飲みながらバカ話。その後はひとり新宿に移動し、中原昌也と自分たちの友達の少なさについてぼやき合い、さらに店の片隅で飲んでいた重松清のボックス席におぼつかない足取りでなだれ込む。某月某日、新宿のバーのカウンターで南伸坊や康芳夫と飲む。その後は南伸坊と連れ立って場所を変え、中野翠と三人で飲む。

 映画『明日泣く』(2011)に出演者した坪内祐三と意気投合した内藤誠監督が、「次は『酒中日記』だ」と宣言して実現させてしまった映画。「酒中日記」は坪内祐三があちこちの酒場を飲み歩くエッセイなのだが、映画は実際によく足を運ぶ店の中から幾つかを選び、出演者も事前にセッティングして、あとはある程度話題のテーマを決めて自由にしゃべらせているような雰囲気だ。場所や人選は事前に決めてあるだろうから、これは完全なドキュメンタリーではない。かといってそこで語られている内容は明らかに台本のないアドリブ的言葉の応酬になっていて、事前に台詞がじっくり作り込まれている劇映画とは異なる。もっとも箱書きだけ作ってあとはアドリブという撮影法は他の映画でも使われているわけだが、この映画では登場する人たちがそれぞれ自分自身を演じている点でよりドキュメンタリーに近いのだ。しかしそれが、演じられたものであることに違いはない。

 しかしこの映画で一番面白いのは、そこで演じられている「酒場談義」が、映画という枠組みを飛び越えてしまう部分だ。ほとんどの場面で、登場人物たちはカメラの方に視線を向けない。それぞれのシーンは複数のカメラで撮影されているのだが、出演者たちは今そこで行われているのが映画撮影だという前提を忘れたふりして、いつもそうしているかのようなお喋りを映画的に再現してみせる。ところが坪内祐三が重松清にからみ出すくだりは、途中からそうした「約束ごと」を越境するのだ。酔っ払った坪内に音を上げて、重松が「それじゃ映画にならないだろ!」などと言い出す始末。「何が映画だって?」「いや、だからこれだよ」「知らねえよ、映画なんて何のことだ?」などと会話があってまたその場は約束ごとに戻って行くのだが、この虚実ギリギリの部分がじつにスリリング。映画の最後にすべてを、強引にフィクションに押し込むくだりにもニヤニヤしてしまった。

京橋テアトル試写室にて
配給・宣伝:マジックアワー
2015年|1時間39分|日本|カラー|16:9|ステレオ
公式HP: http://www.magichour.co.jp/sake/
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt4396072/

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中