百日紅 〜Miss HOKUSAI〜

5月9日(土)公開 テアトル新宿ほか全国ロードショー

原恵一が描く大江戸ワンダーランド!

百日紅 〜Miss HOKUSAI〜

 江戸時代の人気絵師・葛飾北斎こと鉄蔵は、絵一筋で他は何もできない男だ。鉄蔵と同居し、これまた絵一筋で他に何もないのが、娘のお栄だった。部屋は絵の道具と紙が散乱していて、誰も片付けない。食事も作らない。そこはひたすら絵に没頭する父娘にとってのアトリエ。散らかりきったら引っ越せばいい。そんな家には鉄蔵を慕う善次郎という若い絵師が、半分居候のように出たり入ったりしている。歌川門下の若い絵師・国直も時折顔を見せる。お栄は時として父の代筆を務めるほどの腕前で、鉄蔵も娘の描く美人画には一目置いている。だがまだ嫁入り前の娘では、鉄蔵が押し付ける春画の仕事には実感がこもらない。自分の行き詰まりの原因を打破すべく、お栄は陰間茶屋に乗り込んでコトを済ませてしまおうと考えたりもする。じつは鉄蔵にはもうひとり、生まれたときから目の悪いお猶という娘がいる。お猶に会うの渋る鉄蔵を、お栄は「弱虫だ」と言うのだが……。

 杉浦日向子の同名コミックを、『河童のクゥと夏休み』(2007)や『カラフル』(2010)の原恵一監督が映像化した長編アニメーション作品。原作コミックは小さなエピソードを積み重ねた連作短篇なのだが、そこからいくつかのエピソードを拾い上げながら大きなドラマに脚色したのは『カラフル』や『はじまりのみち』(2013)でも原監督と組んだ丸尾みほ。タイトルになっている百日紅(さるすべり)の木と花を印象的に使いながら、江戸の四季の風景と人々の暮らしぶりを丁寧に描いている。互いに接点のない複数のエピソードをつなぐ役目を果たしているのが、鉄蔵やお栄と離れて暮らしている鉄蔵の妻・ことと、末の娘お猶の存在だ。物語の重要な小道具になる百日紅もまた、ことが住む家の庭に咲いている木だ。原作では他のエピソードに埋もれている家族のドラマだが、映画ではこととお猶が物語の円の中心。鉄蔵はその周囲をくるくる衛星のように回る。

 丁寧に作られたアニメーション映画だが、これがすごく面白いかというと「う〜む。どうなんだ?」という気持ちにもなる。原恵一の長編アニメは『クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』(1998)以降については全部観ているのだが、この監督はやり評価の高い『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)と『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2003)を越えられないのではないだろうか。マンガチックに誇張されたキャラクターが、原恵一のリアリズム指向と何らかの化学反応を起こしたところに「原恵一ワールド」ができあがる。考えてみれば今回の映画は、原監督のアニメ映画では初となる「非ファンタジー作品」だった。エピソードの中には妖怪話めいたものもいくつか挿入され、そこでは原監督らしい世界が垣間見えるのだが、それが映画の中心になっていないところがこの映画の弱味なのだ。

テアトル新宿にて
配給:東京テアトル
2015年|1時間30分|日本|カラー|ビスタサイズ
公式HP: http://sarusuberi-movie.com/
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt3689910/

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