ザ・ヴァンパイア 〜残酷な牙を持つ少女〜

9月19日(土)公開予定 新宿シネマカリテ

暗闇から現れるチャドル姿の少女ヴァンパイア

ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女

 イランのどこかにあるバッドシティ。青年アラシュはアルバイトで貯めた金でようやく手に入れた自慢の愛車を、ヤク中の父が作った借金のカタとして売人のサイードに取り上げられてしまう。ピカピカの車で夜の街に出たサイードは、チャドル姿の美しい少女をナンパして自分の家に連れ込むことに成功。だが彼女の正体は、人間の生き血をすするヴァンパイアだった! 車を取り返そうとするアラシュは、サイードの家の前で美しい少女とすれ違う。家の中で見つけたのは変わり果てたサイードのむくろと、無造作に投げ出したまま放置してある現金と麻薬の入ったアタッシュケース。アラシュはサイードのポケットから車のキーを取り戻し、さらにアタッシュケースも奪って部屋を飛び出す。これで自分の人生を変えるのだ。街で麻薬を売って金を稼ぎ、それまでの貧しい暮らしから抜け出そうとするアラシュ。あるパーティの帰り道、彼は再びあの少女に出会って家に招かれる。

 かなり風変わりなヴァンパイア映画だ。全編モノクロ。舞台になっているのはイランのどこからしく、登場人物たちの台詞はペルシャ語。出演しているのもイラン系の俳優たち。しかしこれはイラン映画ではなくアメリカ映画。監督・脚本のアナ・リリ・アミリプールはイラン系移民としてイギリスで生まれ、UCLAで映画を学んだというキャリアの持ち主。映画の舞台はイランの某所にある町ということになっているが、IMDbによれば撮影場所はカリフォルニアだそうだ。そこにペルシャ語の道路標識を立てて、イランの風景に見立てている。バッドシティという町の名やほとんどが夜間シーンなこともあって、映画に登場する町はまるで『バットマン』のゴッサムシティ郊外といった風体だ。ゴッサムシティにコウモリのコスプレをするスーパーヒーローや各種の超人が現れるなら、バッドシティにチャドル姿の少女ヴァンパイアが現れたって何の不思議もないように思える。

 圧倒的なビジュアルを筆頭に、才気走った作り手のセンスが前面に押し出された映画だと思う。しかし「圧倒的なビジュアル」は必ずしも「圧倒的な面白さ」にはつながらない。目の覚めるような鮮烈な映像には感心するが、その映像がかえって物語の流れをせき止めてしまっているようにも思う。観客が映像を意識しすぎて、物語に入り込めなくなってしまうのだ。観客が物語に感情移入するためには、作り手の表現技法ばかりがあまり先走ってもいけない。黒澤明が確かそんなことを言っている。黒澤映画の映像技法は凝りに凝っているが、一般の観客がカメラの存在を強く意識するようなカメラワークは用いられなかった。『ザ・ヴァンパイア』は逆だ。作り手が表現テクニックを見せびらかして、観客に感心してもらいたいという気持ちがまずあるのだろう。それが悪いわけではない。しかしそのためには、表現に負けないだけのドラマが必要になってくるのではないだろうか。

(原題:A Girl Walks Home Alone at Night)

ギャガ試写室にて
配給:ギャガ・プラス
2014年|1時間41分|アメリカ|カラー|サイズ|サウンド
公式HP: http://vampire.gaga.ne.jp/
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt2326554/

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