ヒトラー暗殺、13分の誤算

10月公開予定 TOHOシネマズシャンテ

ファシズムに孤独な戦いを挑んだ男

ヒトラー暗殺、13分の誤算

 1939年11月8日。ドイツのミュンヘンにあるビアホールで、16年前に起きた「ミュンヘン一揆」を記念する集会が開かれていた。壇上で参加者たちの喝采をあびているのは、ドイツの最高指導者であり国防軍最高司令官でもあるアドルフ・ヒトラーだ。彼が登壇してからしばらくして、ビアホールに仕掛けられていた爆弾が炸裂する。同じ頃、スイスとの国境の町コンスタンスで、国境警備の兵士が挙動不審なひとりの男を逮捕する。彼の名はゲオルク・エルザー。彼こそビアホールに爆弾を仕掛け、ヒトラーの暗殺を企てた犯人だ。しかしヒトラーはこの日、演説を予定より早く切り上げたことから爆発に巻き込まれることがなかった。実行犯はエルザーだ。だが総統暗殺という大それた計画が、彼ひとりの発案によるものとは思えない。親衛隊のアルトゥール・ネーベと秘密警察のハインリヒ・ミュラーは、エルザーを取り調べて背後の黒幕を探り出そうとするのだが……。

 有名なヒトラー暗殺未遂事件には、トム・クルーズ主演で映画にもなった1944年の事件が有名だが、この映画で取り上げられているのはそれより5年も早い事件だ。主人公のゲオルク・エルザーは家具職人だったが、たったひとりで爆弾を作って計画を実行したのだという。だがその行いは、戦後も長く低い評価しか受けてこなかった。『ワルキューレ』(2008)のシュタウフェンベルク大佐や、『白バラは死なず』(1982)や『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』(2005)として映画化された白バラ運動は、当時のドイツ国内で生まれていた反ヒトラーの声を反映したものだった。だが1939年のヒトラーはドイツ国民から圧倒的な支持を受けていて、反ヒトラーの声が大きなものになることはなかった。エルザーの暗殺計画は単独犯だったこともあって、長らく「頭のおかしな男が国家指導者を暗殺し損ねた事件」というイメージで語られてきたのだ。

 この映画はエルザーの犯行については事実に基づいているが、私生活の部分はフィクションを交えているという。だが物語をナチスが政権を取る前の1932年からスタートさせ、ドイツ国内に少しずつ排他的で好戦的な気運が高まっていく様子を描くこの映画の意図は明確だろう。この映画はエルザーの行為を賞賛しているわけではなく、エルザーをそこまで追い詰めてしまった戦前ドイツ社会の変化を描こうとしているのだ。音楽を愛し、女性を愛し、自由を愛する青年が、実家のある小さな田舎町で見たものは何だったのか? それは政治と無縁の人々の中に、少しずつ確実にファシズムが浸透していく不気味な風景だった……。今から80年前の外国の話だが、これが今の日本から見ると他人事とは思えない。「選挙に勝ったら好きなようにやるんだ。選挙に負けたやつは文句を言うな!」という乱暴な意見がまかり通るのは、80年前のドイツも今の日本も少しも変わらない。

(原題:Elser)

GAGA試写室にて
配給:ギャガ
2015年|1時間54分|ドイツ|カラー|シネスコ|5.1chデジタル
公式HP: http://13minutes.gaga.ne.jp/
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt1708135/

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中