カンフー・ジャングル

10月10日(土)公開予定 新宿武蔵野館

素手で人を殺す力に取り憑かれた男たち

カンフー・ジャングル

 ハーハウ・モウは香港警察の武術教官の身でありながら、野試合で相手を殺し5年の実刑判決を受けた。それから3年後、刑務所の中でテレビを見ていたハーハウは突然暴れ出す。テレビで流れていたのは、ひとりの武術家が殺されたという事件。ハーハウは事件を担当するロク警部を刑務所に呼び出すと、自分を釈放してくれるなら捜査に協力すると告げる。警察はこの申し出を一笑に付すが、警告通りに第2の事件が起きたことからハーハウは釈放。警察の厳重管理下で捜査チームの一員になるのだった。ハーハウによれば、殺されたのは武術各分野の達人ばかり。犯人は武術界のナンバーワンになるため、達人たちを次々に襲撃しているのだ。犯人が現場に残していく手掛かりから、ハーハウは容疑者を特定する。だが彼の住居は既にもぬけのから。こうして捜査が空振りを続ける間に、第3、第4の殺人事件が発生してしまう。しかし犯人への包囲は少しずつ狭まっていた……。

 ドニー・イェン主演のアクション映画だが、この映画のねらいは「銃器の使用が当たり前になっている現代社会の中で、いかにして武術の達人同士を戦わせるか?」にある。そこで出てきたのが、独学で各流派の技を習得した「武術オタク」というキャラクターだった。ワン・バオチャンが演じる連続殺人鬼は、足が悪いというコンプレックスを克服するために徹底的に自らを鍛え抜いた。彼の望みは、各流派の達人たちと戦って勝利し、武術界のナンバーワンになること。彼にとってたったひとりの理解者だった妻が死んだとき、彼の狂気が解き放たれる。彼が他の現代の達人たちと異なるのは、「試合で相手を殺してしまってもいい」と考えていること。むしろ「相手を殺してこそ本当の強さだ」と考えている。もちろん彼が人一倍激しい修行に明け暮れていたことは間違いない。だが彼の強みはそれよりむしろ、戦いの中に自分の命を平気で投げ出してしまえるところにあるのだ。

 連続殺人犯とそれを追う男が、武術に対してはまったく同等の情熱を持つある種の「同志」であったという物語。犯人の男は試合で相手を殺してしまったハーハウを「自分と同じタイプの人間」だと考えるが、これは決して誤解ではないということが後々わかってくる。ハーハウもまた、犯人の男に武術家としてのシンパシーを感じるのだ。黒澤明がしばしば作品の中で取り上げた、ドッペルゲンガーのモチーフがここにはある。この映画の主人公と犯人は、『野良犬』の主人公と犯人、『椿三十郎』の主人公とライバルの男と同じような関係なのだ。犯人の男は狂気に取り憑かれている。だがそれと同じ狂気が、主人公の中にもある。クライマックスの対決シーンで、ドニー・イェンは命を賭けて戦うのが嬉しくてしょうがないという表情を見せる。相手を自らの手でぶちのめし、息の根を止めることが喜びになってしまうのだ。暴力には人間を酔わせ、それに溺れさせる魅力がある。

(原題:一個人的武林 Kung Fu Jungle)

GAGA試写室にて
配給:ギャガ・プラス 宣伝:フリーマン・オフィス
2014年|1時間40分|香港・中国|カラー|シネスコ|5.1ch
公式HP: http://kung-fu-jungle.gaga.ne.jp/
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt2952602/

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