顔のないヒトラーたち

10月3日(土)公開予定 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館

1950年代のドイツ人はホロコーストを知らなかった

顔のないヒトラーたち

 1958年、西ドイツ。フランクフルトの検察庁に勤める若い検事ヨハン・ラドマンは、庁舎のロビーで大声で騒ぐ新聞記者の姿を目撃する。「ナチスの戦犯が小学校の教師をしている。これは許されることではないぞ!」。だが他の検事たちは見て見ぬ振り。「アウシュビッツにいたんだぞ」と言われても、誰もそんな地名を知らない。「アウシュビッツを知らないなんて!」と毒づく記者が気になったヨハンは、告発された教師についてひとりで調べてみた。米軍の記録をたぐり、問題の教師が収容所で働いていたことを突き止めたヨハンは文部省に通知。だが教師はクビになることもなく、仕事を続けている。「もはや殺人以外はすべて時効だ。収容所で殺人が行われた証拠はあるのか?」と同僚たちに突き上げられたヨハンは、検事総長の後押しを受けてアウシュビッツとナチスの戦争犯罪について調査をはじめる。こうして彼は「沈黙の迷宮」に最初の一足を踏み入れた……。

 戦争犯罪の追究と自己批判の厳しさから、「戦後の謝罪と賠償」について何かと日本と比較されることの多いドイツ。日本人の目から見ると、ドイツは自分たちの過去と正しく向き合って過去の恥部からも目を背けず、周辺国への謝罪と賠償を通してヨーロッパをはじめとする世界各国の信頼を勝ち取ったかに見える。だがそのドイツ人も、1950年代の終わりには「過去は過去。今さらそれを暴いてどうなる」「戦争の精算はニュルンベルグ裁判で終わった」「戦犯を糾弾することでドイツ人たちが自分たちの父親を信じられなくなったらどうする」という雰囲気だった。映画のはじまる1958年は戦争終結から13年たっている。映画の冒頭は小学校の風景だ。無邪気に遊ぶ戦後生まれの子供たちは、戦争に対しては何の責任も持っていない。だがそのすぐ近くに、ナチスの残党たちが息を潜めて暮らしている。「もう済んだことだ」「忘れろ」「平和を楽しめ」と彼らは言う。

 ドイツ人の手によってドイツ人の戦犯を裁く「フランクフルト・アウシュビッツ裁判」は1963年にスタートし、そこで明らかにされたナチスの残虐行為の数々がドイツ人の戦争に対する見方を大きく変化させたと言われている。だがこの映画は2時間3分かけて、その裁判までたどり着かない。この映画は若い検事を主人公にした「裁判もの」の一種だが、証拠集め、証言集め、主人公に対するさまざまな妨害、他の捜査機関との駆け引き、主人公が抱え込んだ葛藤などを描いて、裁判が開廷するところでエンドマークとなる。この映画が描こうとするのは「裁判で悪人が懲らしめられて正義が勝つ!」という物語ではない。目を背けたい過去の事実に主人公が向き合い、逃げ出したくなるところを踏みとどまり、改めて真実の究明を決意する「個人的な戦い」に焦点を当てているのだ。歴史認識問題でとやかく言われがちな日本人としては、ぜひ観ておくべき優れた映画だと思う。

(原題:Im Labyrinth des Schweigens)

京橋テアトル試写室にて
配給:アットエンタテインメント
2014年|2時間3分|ドイツ|カラー|シネマスコープ|ドルビーSRD
公式HP: http://kaononai.com/
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt3825638/

顔のないヒトラーたち」への5件のフィードバック

  1. ピンバック: コンピュータの出現で変わったもの | 新佃島・映画ジャーナル
  2. ドイツが戦争犯罪に対して確かに表向きは謝罪をしているかのように受け取れます。しかし謝罪と賠償をしてると日本では報道されていますがポーランドなど東欧は全く請求もしていないしドイツから一切の賠償も受け取っていないと言っています。よくドイツと日本を比較しますが真実を報道すべきです。どうしてドイツは戦後賠償をしているなど知りもしないで言えるのでしょうか?日本は韓国にも莫大な援助をしていますしODAを中国に今でも行っています。正しい報道がされるべきです。

  3. ユダヤ人には連合国に負けたから謝罪したにすぎない。本当に悪いことをしたからあやまって償いますなら旧植民地の国々にも謝罪すべき。

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