みんなのための資本論

11月21日(土)公開予定 ユーロスペース

日本は1億総中流社会を取り戻せ!

みんなのための資本論

 クリントン政権で労働長官を務めたロバート・ライシュは、現在カリフォルニア大学バークレー校で公共政策大学院教授として教鞭を執っている。彼によれば、自由主義経済に完全な自由はあり得ない。どれだけ自由を標榜してもそれは決められたルールの中での自由であり、自由な競争を行うためのルールを決めるは政府の仕事なのだ。ところが現在のアメリカでは、このルールがおかしなことになっている。アメリカの経済は好調なのに、富み栄えるのは富裕層ばかりで、中間層以下にはその恩恵が届かない。アメリカを蝕んでいる大きな問題は「格差の拡大」なのだ。かつてアメリカ社会を支えていたのは豊かな中間層であり、この中間層の厚みが世界一の経済大国を支えていた。だがここ数十年、一般労働者の賃金はずっと横ばいで、経済成長で国にあふれかえる富のほとんどを富裕階級が独占する仕組みができてしまった。 このことが、アメリカを貧しい大国にしているのだ。

 この映画で問題視されている「経済格差」は、マイケル・ムーア監督が『キャピタリズム マネーは踊る』(2009)で取り上げたものでもあった。その4年後に製作された本作は、ムーア監督が市井のドキュメンタリストとしての視点で現象面から切り込んでいった問題に、よりアカデミックな視点から切り込んでいく。ムーア監督が格闘した「資本主義」という怪物は暗がりの中にその姿を隠したままだったが、ロバート・ライシュはそれを日のあたる場所に引きずり出し、映画を観る人たちの目の前でその正体を暴いてみせる。その手腕は快刀乱麻を断つがごとき見事さだ。なるほど、経済格差は悪である。トリクルダウン理論は嘘である。それはよくわかる。だが資本主義が正体不明の怪物でないとわかったところで、それがとてつもないパワーと巨体を誇る猛獣であることは変わらない。具体的に我々が何をすればいいのかは、この映画を観てもやはりわからないままなのだ。

 格差の拡大は日本でも起きている問題らしいのだが、正直それにピンと来ないことも多い。しかしアベノミクスがトリクルダウン理論を前提にしているように、日本の政治家たちはどうやら経済好調のアメリカ型社会をお手本にしているようなのだ。しかしこれはかなり危険なことであるらしいことが、この映画を観るとわかってくる。アメリカは各種の統計や指標を見る限り、確かに経済好調の状態を維持しているようだ。だがそこに暮らす人たちの多くは、好調な経済の恩恵をまったく得られていない。恩恵を受けるのは、会社経営者など一部の富裕層だけだ。この映画はそうした形で発展していく経済、一部だけが豊かになって多くの国民がむしろ貧しくなるハリボテ経済の欺瞞に警鐘を鳴らし、中間層への投資拡大を訴える。かつての日本が一億総中流だったのは、じつはすごくいいことだったのだ。それこそが、日本の経済力を支えた活力の源泉だったように思えてならない。

(原題:Inequality for All)

映画美学校試写室にて
配給:太秦 宣伝:スリーピン
2013年|1時間25分|アメリカ|カラー|16:9|DCP
公式HP: https://www.facebook.com/minnashihonron
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt2215151/

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