父のタラップ車

第28回 東京国際映画祭 アジアの未来

オンボロのタラップ車がダメ親父の人生を変える!

Merdiven Baba

 空港で清掃の仕事をしているファズリは、愛妻スヘイラとふたりの娘の4人家族。だが妻は夫の態度に最近イライラしっぱなしだ。勤続18年なのに昇進とは無縁。安月給で家計をやりくりする妻の気持ちにもなってほしい。スヘイラは子供を連れて、同じ町内の実家に帰ってしまう。「わたしに帰ってほしかったら、車の1台も買ってみせてよ!」というスヘイラの言葉に、ファズリはあることを思いつく。会社が従業員向けに、中古車両を格安で払い下げている。その中に、大型のアメリカ車があったはずだ。会社の倉庫で埃まみれになっていた車は、トラックの荷台に飛行機乗降用のタラップを付けたもの。このままでは公道も走れない。だが「タラップはすぐ外せる」と言われて、ファズリはこの車を購入。しかしスヘイラは、不格好でオンボロのタラップ車を見て怒り出す。やはり離婚か。だがその夜近所で火事があり、ファズリの車が逃げ遅れた人を救出することになった。

 公私ともに存在感の薄い中年のダメ親父が、一台のタラップ車を手に入れたことから一躍人気者になってしまう姿を描くコメディ映画。この映画では妻のスヘイラが、口ではあれこれ文句を言いつつじつはファズリにべた惚れだということが観客に伝わっているのがいい。彼女が困っているのは、本当はファズリに対してではない。いつまでもうだつの上がらない夫のファズリを、それでも愛し続けずにいられない自分自身の気持ちに困っているのだ。彼はいい人だ。優しい人だ。自分や家族のことを、心から愛してくれている。彼に愛想が尽きて別れられるなら、話はどれほど簡単だろうか。しかしそうはできない。できないからこそ、スヘイラは夫にきつく当たる。彼女の気持ちを知っている観客から見れば、彼女は夫にべた惚れの可愛い女なのだ。だから映画を観ていても、観客はスヘイラを嫌いにならない。むしろ好きになるほどだ。でもファズリには、妻の本心がわからない。

 ファズリはタラップ車を手に入れて一躍成功者となるが、それによって彼の人柄が変わることはない。彼は相変わらずお人好しで、相変わらず優しい人だ。しかし世間の彼を見る目はがらりと変わる。世間は人間を見るとき、肩書きや世間の評判を通してその人を見ている。この映画はそんな世間の目を批判しているのだ。街の人たちはファズリを無視し、彼がタラップ車を手に入れても最初は大笑いした。だが風向きが変われば、そんな評価は一変する。こうした世間の風向きから、スヘイラが一歩引いてファズリを見ているのがいい。彼女は夫が成功者になったとしても、すぐには彼のところには戻らない。同じようにファズリに対する態度を変えない人物としては、会社の同僚で彼にタラップ車の購入を勧めた男がいる。条件次第で人物に対する評価を容易に変える人たちと、条件に関わらず変わらぬ態度で人に接する人たちとが、この映画の中では上手く対比されていると思う。

(原題:Merdiven Baba)

神楽座(KADOKAWA富士見ビル)にて
配給:未定
2015年|1時間45分|トルコ|カラー|サイズ|サウンド
公式HP: http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=49
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt4696010/

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