残穢【ざんえ】 住んではいけない部屋

第28回 東京国際映画祭 コンペティション
2016年1月30日(土)公開予定 全国ロードショー

それは手垢のついた怪談話のはずだった……

残穢【ざんえ】住んではいけない部屋

 ホラー小説作家の「わたし」に編集部経由で届いた手紙は、郊外のマンションで一人暮らしをしている女子大生・久保さん(仮名)からのものだった。彼女の住む部屋では夜中に無人の和室から、畳をホウキでこするような物音が聞こえるという。わたしにはこれが、他の体験談と同じ「ありがち」で「ありきたり」な内容に思えた。それから数ヶ月後、久保さんから続報が届く。音のする部屋の戸を開いて中を見ると、一瞬だが畳をすべる着物の帯が見えたという。どうやら久保さんは、着物姿で首をくくった人の姿を想像したようだ。だがわたしはその手紙を読んで、2年前に受け取った似た内容の手紙を思いだした。手紙の差出人は久保さんと同じマンションの、まったく別の部屋に住む人だ。それから半年後、久保さんが入居する前に同じ部屋に住んでいた青年が、転出してしばらくしてから首つり自殺していたことがわかる。やはりこのマンションに、異変が起きているのだ。

 小野不由美の小説「残穢」を、竹内結子と橋本愛主演で映画化したホラー映画。ホラーといっても前半から中盤までは、それほど恐いわけではない。主人公の小説家が自分に送られて来た体験談の謎を解こうとする筋立ては、ホラーというよりミステリー映画に近い雰囲気なのだ。奇妙な話はたくさんある。だがそれで誰かが死ぬわけでもない。同じようにミステリーとホラーを組み合わせた作品には、大ヒットした『リング』(1998)がある。あれも発端は「呪いのビデオ」という実話ホラー風のエピソードからはじまるわけだが、主人公が謎解きに向かう動機は、謎を解かないと自分自身が死んでしまうという危機意識からだ。それに比べると、本作で主人公たちが謎解きに向かう動機は「好奇心」だ。主人公の小説家は「これは使えるネタかもしれない」という職業的な好奇心から、マンションで起きる怪現象の謎を解こうとする。しかしこの距離感が終盤の恐さを生み出す。

 ホラー映画を楽しむ人間にとって、物語が提供する恐怖は「他人ごと」だ。当事者にとっては身も凍るような恐ろしさかもしれないが、映画を観る側はそれを短時間のうちに消化しておしまい。我々は物語の当事者ではなく、通りすがりの赤の他人。だからこそ我々は、ホラー映画を安心して楽しめる。

 この映画の主人公たち、特に小説家の「わたし」や、同業者の平岡、心霊マニアの三澤などは、通りすがりの赤の他人としてこの話に参加してくる。彼らの動機は好奇心だ。自分は外部の絶対安全な場所に身を置きながら、恐ろしい物語を発掘できることにワクワクしている。しかしこの物語は、怪談話に「絶対安全な場所」などないことを彼らに思い知らせる。怪談物語はそれを聞く人と語る人の世界を変容させ、外部にいたはずの人々をも巻き込んでいつしか物語の当事者にしてしまうからだ。だがそれは「怪談」に限らないのかもしれない。これは「物語」を巡る寓話なのだ。

お台場シネマメディアージュ(スクリーン13)にて
配給:松竹
2015年|1時間47分|日本|カラー|ビスタサイズ
映画祭公式HP: http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=31
公式HP: http://zang-e.jp
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt4842814/

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