スプリング、ハズ、カム

第28回 東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ

巣立って行く娘を見守る父親はまるで花嫁の父

Spring Has Come

 まだ冬の寒さが続く2月の終わり。東京の大学に進学が決まった璃子は、4月から住む部屋を探すため父とふたりで上京してきた。不動産屋の案内でいくつかの部屋を見て回ったが、その日3件目に案内されたのが、祖師ヶ谷大蔵の築30年のアパート。学校にも近くて大家さんの人柄もよさそうなので、璃子はここに住むことに決めた。「近所を少し歩いてみたい」という父娘を、世話焼きの大家さんが案内してくれることになった。美容院を紹介し、神社にお参りし、公演ではドラマのロケ撮影に飛び入り出演。大家さんと別れた後は、たまたま出会ったインド人の結婚式にも招かれて楽しい時を過ごすことができた。璃子が生まれた直後に母は亡くなり、父はその後も再婚することなく、男手ひとつで璃子を育ててくれた。そんな父と娘の時間がもう間もなく終わるのだ……。そして4月。璃子は今度はひとりで東京にやって来た。いつの間にか、桜の季節も終わろうとしている。

 監督・脚本・編集は吉野竜平。監督の前作『あかぼし』(2011)は、新興宗教にのめりこむ母親と子供というかなり特殊な世界を扱っていた。今回の映画はそれから一転して、大学進学のため一人暮らしの部屋を探す娘と父親の話だ。もちろんこの父と娘には固有の事情もあるのだが、毎年何十万人もの大学1年生が親許を離れて一人暮らしをはじめるのだから、前作に比べればずっとありふれたモチーフではある。『あかぼし』と本作の共通点は、シングル家庭の中の濃密な親子関係を扱っていること。『あかぼし』では母親と小学生の息子の離れがたい関係を描いているが、『スプリング、ハズ、カム』では大学に入学して父親のもとを離れて行く娘を描いている。2本の映画は確かに対照的なのだが、対照的すぎて相互の関係が補完し合っているようにも見える。主演は落語家の柳家喬太郎と、主演作の『ガールズ・ステップ』(2015)が公開されたばかりの石井杏奈だ。

 あらすじは時系列にストーリーを書いたが、映画の構成はもう少し複雑だ。映画は4月初旬からはじまり、空室だったアパートに主人公・時田璃子の荷物が運ばれる。運ばれた段ボールの荷が解かれ、部屋の窓にカーテンが掛けられ、無人だった部屋が少しずつ「一人暮らしの女の子の部屋」になって行く様子と並行して、そこに1ヶ月ほど前の部屋さがしの風景が割り込んでくるのだ。そこから浮かび上がってくるのは、父親と死んだ母親の関係だ。父親はあまり言葉に出すことはないが、18年前に娘を産んですぐ亡くなってしまった妻をまだ愛している。娘もまた口にはしないが、母親に対しては何か思うところがあるのだろう。彼女の長い独りごとは、死んだ母親に向けられた近況報告のようにも聞こえるのだ。

 全体に台詞が多い映画なのが少々気になる。父親役の喬太郎が長台詞を語ると、語り口といい、表情といい、まるで落語そのものになってしまうのが少々気になる。

TOHOシネマズ六本木ホテル(スクリーン5)にて
配給:未定
2015年|1時間42分|日本|カラー|ビスタ
公式HP: http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=61
公式HP: https://www.facebook.com/springhascome.movie
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt5038918/

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