フル・コンタクト

第28回 東京国際映画祭 コンペティション

絶対に安全な戦争が兵士の心を蝕む

Full Contact

 アメリカ軍は中東で遠隔操作の無人機(ドローン)を使って、敵対するテロ組織の要人や施設を攻撃している。アイヴァンはその無人機のパイロットだ。勤務する空軍施設はネヴァダ州の砂漠地帯にあり、彼は宿舎から施設まで通い、通信で指示を受けてターゲットを攻撃する。アイヴァンは相手を攻撃できるが、相手がアイヴァンを攻撃することはない。絶対安全な場所から、彼はミサイル発射のボタンを押すだけなのだ。だがこの仕事が、彼の心を少しずつすり減らしていく。顔からは、喜怒哀楽の表情が消えてしまった。ある日アイヴァンは、テロ組織の訓練施設を攻撃する命令を受ける。その時彼はカメラ越しに、子供の姿を見た。だが命令は施設の破壊だ。アイヴァンはミサイル発射のボタンを押した。何度も何度もボタンを押し続けた……。だがそれからしばらくして、彼が攻撃した施設はテロリストの訓練施設ではなく、子供たちが通う学校だったことがわかるのだった。

 あらすじには無人機パイロットの話だけを書いたが、映画は主演のグレゴワール・コランが3人の登場人物を演じるオムニバス映画だ。その1話目が無人機パイロットのエピソードで、2話目は小さな無人島に漂着した男の話、3話目は総合格闘技の世界に入門する男の話になっている。主演のコランの他にも複数の俳優が各エピソードに重複して出演するし、タイトルを入れるなど各エピソードを区切る明確な仕切りもないので、映画を観ているといつの間にか次のエピソードに移動していた戸惑うことになる。だがこうして観客の気持ちに揺らぎを起こすのが、作り手の意図なのだろう。観客は話がつながらなくなったところで戸惑う。そして何が起きたのかと考え込む。映画の中から答えのヒントを探り出そうとする。どんな映画でも、観客は映画上映開始から3分や5分は同じことをしている。この映画はそれを、映画の途中でも観客に強いる。しかしこの緊張感は新鮮だった。

 3つのエピソードはそれぞれが、主人公と「敵」との関わりを描いた3つの物語になっている。そしてエピソードを積み重ねるごとに、主人公と「敵」との距離は物理的に接近していく。最初のエピソードでは、主人公と「敵」はそもそも物理的な接点すらない。遠隔操作の無人機とビデオカメラの映像だけの関係だ。2番目のエピソードでは、両者がより接近している。互いの表情が肉眼で確認でき、言葉が届く距離だ。そして3番目のエピソードでは、主人公が「敵」と直接肉体的な接触を持つ。だが主人公は敵との距離が遠ければ遠いほど心を蝕まれ、敵との距離が近ければ近いほどかえって生き生きとしているように見えるのだ。もちろん一方では確実に人が死んでいて、一方ではそうではないという違いもあるだろう。目に見えない巨大な暴力が、目に見える暴力よりもむしろ人間を疎外していく逆説。主人公が血みどろになるエンディングが、なぜかすがすがしく爽やかだ。

(原題:Full Contact)

TOHOシネマズ六本木ヒルズ(スクリーン6)にて
配給:未定
2015年|1時間45分|オランダ、クロアチア|カラー|シネマスコープ
公式HP: http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=11
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt3702720/

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