告別

第28回 東京国際映画祭 アジアの未来

娘が留学から帰国すると父は末期がんだった

A Simple Goodbye

 シャンシャンの父は肺がんだ。父と母は長く別居しているが、娘のシャンシャンが留学先のイギリスから戻ってきたとき、父は自宅療養のために退院して母の家と実家の間を行ったり来たりしている。周囲は父の体調を気にしてあれこれ気をつかっているのに、父は相変わらずマイペースに好き勝手な生活だ。タバコは吸う。酒は飲む。友人と集まって麻雀はする。食が細くなった父のために母がせっせと料理を作っても、少し箸を付けただけで放り出してしまう。今では栄養のほとんどを、点滴で補給していることさえあるのだ。父の命はもう長くないだろう。本人もそのことをよくわかっているはずだ。だが誰もそのことを口にしない。シャンシャンは以前から父との折りあいが悪く、今回の帰国も父の体調を気づかってのものではない。彼女はイギリスである問題を抱え、それから逃げてきたのだ。シャンシャンを追うように、イギリスからは問題の原因を作った恋人も帰国する。

 家族のひとりが病気になって亡くなる。その別れの日までの日常を淡々と描いた中国映画だ。物語には監督の自伝的な要素が反映しているらしいのだが、こうした映画は得てしてひとりよがりなものになることがある。この映画も描写のあちこちに、説明不足な部分が多い。どのエピソードも当人にとってはわかりきった話なので、観客にそれを説明する努力を怠ってしまうのだろう。例えば留学から戻って来たシャンシャンが妊娠しているのかどうかが、映画を観ていてもわからない。彼女がトイレで吐いているシーンがあるので、これだけ観れば妊娠しているというほのめかしなのだが、そのしばらく後になると、彼女がトイレで自分の口に指を突っ込んで吐いている場面がある。ならばこれはつわりではなく、精神的に不安定になって摂食障害を起こしているのではなだろうか。映画の中で彼女は酒も飲めばタバコも吸う。これで妊娠の有無は、ますますわからなくなってしまう。

 他にも主人公の両親が別居した理由や、娘と不仲になっている理由などがよくわからない。監督にとってあまり重要なことではなかったのかもしれないが、重要でないなら余計にそうしたことを最初にきちんと説明してしまった方がいい。でないと「これはなぜこうなったのか?」という疑問が観客の心に引っかかって、他のエピソードを受け付けるのが後回しになってしまう。観ている側は「いずれあの謎の答えがわかるに違いない」と身構えてしまい、作り手の意図しないスタンスで映画と向き合うことになるからだ。肉親の死というのは普遍的なテーマであり、エピソードを整理すればもっと素直に共感を得られる物語になったと思う。両親は内モンゴルから北京に移住してきた映画人夫婦で娘も映画監督になるのだから、作りようによっては映画ファンに愛される作品になっただろうに。最後に引用されている古い映画(といっても1990年代の作品)は、すごい迫力だった。

(原題:告别 A Simple Goodbye)

TOHOシネマズ六本木ヒルズ(スクリーン5)にて
配給:未定
2015年|1時間40分|中国|カラー|ビスタサイズ
公式HP: http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=47
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt5112314/

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