ひつじ村の兄弟

12月19日(土)公開予定 新宿武蔵野館

牧羊一筋の老兄弟を試練が襲う

ひつじ村の兄弟

 アイスランドの小さな村。村人の多くは昔からの顔見知りで、ほとんどが牧畜業を営んでいる。広い牧草地の中で隣り合って暮らすグミーとキディーも、多くの羊を飼う牧畜農家だ。ふたりは実の兄弟だが、互いに長く言葉を交わすこともない関係。こうなった最初のきっかけが何だったのか、もう本人たちにもわからない。こじれきった兄弟の関係が修復できないまま、既に40年もたってしまったのだ。村で年に1度の羊の品評会が開かれる。今年の優勝は兄のキディー。僅差の2位だった弟のグミーは、兄に負けたことが悔しくて仕方がない。しかし優勝した兄の羊を見たグミーは、その様子に違和感と胸騒ぎを感じる。その夜、グミーは忍び込んだ兄の厩舎で問題の羊をよく観察して確信した。これは家畜の伝染病スクレイピーだ。この病気の発生は、近隣の羊すべて殺処分を意味している。予感は当たった。獣医の検査で、羊はやはり病気に感染していることがわかったのだ。

 アイスランドが舞台の映画ということで、昨年公開された『馬々と人間たち』(2014)を思い出した。広大な土地に人間と動物たちが暮らしている風景は、本作もまったく同じだ。ただしこの映画では人間の買っている動物が馬ではなく、羊になっている。劇中には馬も登場するが、主役は羊と、羊を飼う人々だ。雄大な風景と人々の暮らしの対比が、この映画の魅力になっている。もっともこれは「外国人」の目で観た勝手な思い込みで、アイスランドの人にとっては見慣れたありふれた風景なのかもしれないか……。

 おそらく映画を観る誰もが不思議に思うのは、主人公の兄弟ふたりが仲違いをしている理由だろう。僕はこの映画を観ながら、「これは仲の悪い兄弟が過去の確執を乗り越えて和解する物語なのだろう」と物語の先行きにアタリをつけた。だとすれば、映画のどこかで兄弟衝突の原因となった事件が明かされるはずだ。しかし映画をいつまで観ていても、結局それが詳しく説明されることはなかった。でもそれを不自然だとも、不親切だとも思うことはなかった。何しろ40年も続く兄弟の不和なのだ。映画の中では村人の多くが彼らより年下なので、彼らも兄弟が不仲になった原因を知っているとは思えない。ひょっとしたら兄弟たち本人すら、いさかいの最初の原因を忘れてしまっているのかもしれない。ここでは本当のことがよくわからないままに、「あの兄弟は仲が悪い」という事実だけが描かれる。映画を観ている者にとっても、兄弟の関係はそれで構わないのかもしれない。

 原題は「牡羊たち」という意味のようだ。映画にたくさんの羊が出てくることがタイトルの由来だろうが、互いの縄張りを守ろうと角突き合わせている兄弟を牡羊に例えているようにも思う。 農村を舞台にしたほのぼのとした牧歌的な映画だと油断していると、ガツンと一発食らわされる。農家の暮らしは、世界のどこに行ってもそうそう甘い物ではないのだ。

(原題:Hrútar)

GAGA試写室にて
配給・宣伝:エスパース・サロウ
2015年|1時間33分|アイスランド、デンマーク|カラー|スコープサイズ|DCP
公式HP: http://ramram.espace-sarou.com
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt3296658/

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