完全なるチェックメイト

12月25日(金)公開予定 TOHOシネマズ シャンテ

チェス盤の上で起きた米ソ世界大戦

完全なるチェックメイト

 1972年夏。世界中の視線がアイスランドの首都レイキャビクに注がれていた。その中心にいたのは、ソ連が誇るチェスの世界王者ボリス・スパスキーと、彼に挑むアメリカ人の青年ボビー・フィッシャーだ。第1局目を凡ミスで逸したフィッシャーは、なんと第2局目を試合放棄して不戦敗。フィッシャーの奇行は以前から目立っていたが、世界的な注目を集めるこの一戦で彼の緊張は極限まで高まっていた。研ぎ澄まされた彼の神経は目に見えぬ監視や盗聴に怯え、人格と精神は崩壊寸前にまで追い詰められていた……。ブルックリンの貧しい家庭に育ったフィッシャーが、チェスと出会ったのは6歳の時。チェスクラブで本格的にチェスをまなび始めるや神童ぶりを発揮し、13歳で全米ジュニアチャンピオン、14歳でアメリカ選手権優勝、15歳で史上最年少のグランドマスター(最高位)になった。しかしこの頃から、フィッシャーの奇行が周囲を戸惑わせはじめる……。

 チェスの世界で伝説となっている天才棋士ボビー・フィッシャーの伝記映画で、彼が王者スパスキーを破って新王者になるまでを描く。フィッシャーはその後も波瀾万丈でゴシップまみれの人生を送るのだが、映画がそれをバッサリと切り捨てたのはいい選択だと思う。これはチェスについての映画であると共に、第二次大戦後から1980年代の終わりまで続く「冷戦」についての映画でもあるからだ。(フィッシャーは1975年に王者防衛戦を棄権してタイトルを返上し、その後は隠遁生活に入ってしまう。彼は1992年にスパスキーと再戦するが、それは冷戦終了後のことだった。)この映画を観た映画ファンは、まだ冷戦が続いていた1980年代に作られた別の映画を思い出すかもしれない。それは精密機械のように鍛え上げられたロシア人のボクサーと、野良犬のような闘争心で戦いに挑むアメリカ人のボクサーの死闘を描く『ロッキー4/炎の友情』(1985)だ。

 映画はフィッシャーがスパスキー戦の第2局を試合放棄した場面からはじまり、彼の過去に戻って生い立ちやこれまでの経緯を説明し、スパスキー戦のその後を追いかけるというマズルカ形式。フィッシャーは誇大妄想的な言動が目立つ変人だが、映画を観ると彼を取り巻く状況自体がかなり誇大妄想的なものであったことがわかる。母親は共産党員で彼は子供の頃からFBIの監視下にあり、マネージャーはCIA(?)の工作員で、世界中のマスコミに追いかけられ、部屋にはホワイトハウスから激励の電話がかかってきたりするのだ。フィッシャーは確かにおかしいのだが、この時の彼と同じ状況に置かれれば、誰だって多少はおかしくなるのではないだろうか。原題は「捨て駒のポーン」という意味だが、これは東西冷戦の中で米ソの代理戦争を強いられたフィッシャーとスパスキーのことだろう。スパスキーはその後フランスに亡命。フィッシャーもアイスランドに亡命した。

(原題:Pawn Sacrifice)

GAGA試写室にて
配給:ギャガ
2015年|1時間55分|アメリカ|カラー|シネスコ|5.1chデジタル
公式HP: http://gaga.ne.jp/checkmate/
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt1596345/

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