浮き草たち

公開未定

なくしたカバンを取り戻せ!

浮き草たち

 ダニーは小さな食堂で働く真面目で親孝行な青年だが、警察に捕まった兄からいわくありげなカバンの受け渡し役を押しつけられてしまう。カバンの中身は秘密。何やらきな臭い気配だ。「1500ドルの報酬は無駄にできねぇ!」と兄は興奮するが、カバンの受け渡しだけで高額な報酬というのがますます怪しいではない。しかし「お兄ちゃんの言うことを聞きなさい」と母に言われれば、逆らうことはできない。ダニーは気の進まない仕事に手を貸すことになり、運転手役のエリーという若い女と合流して現場に向かう。だがダニーはここで、とんでもない大失態をやらかしてしまった。カバンを交換する相手を間違えて、大事な荷物を無関係な女に渡してしまったのだ。慌てて現場に戻ったときには、既にその女は姿を消していた。このままでは報酬が手にできないだけでなく、自分がどんな制裁を受けるか知れたものではない。ダニーとエリーは消えたカバンの手掛かりを追う。

 犯罪映画の定番スタイルを借りた、ボーイ・ミーツ・ガール型のラブコメディだ。主人公ダニーの家は貧しいポーランド系移民という設定で、大都会で暮らすエスニック・グループの悲哀のようなものがチラチラと見え隠れするのが面白い。犯罪映画としてのスリルとサスペンスを生かしつつ、人をくったユーモアもたっぷりと詰め込まれている。貧しさの中で生活に追われている若者が、そこから逃れようと必死にもがく姿は青春映画そのもの。積み重ねられていく台詞の面白さや、刻一刻と状況を変化させて1時間22分にまとめてしまうテンポの良さには舌を巻く。主人公たちをにっちもさっちも行かない局面に追い込んで、スッとそこから逃がして次に進め、また別の窮地に追い込んでいく物語の誘導が絶妙なのだ。監督・脚本はこれが長編2作目のアダム・レオン。犯罪映画として見るとややわかりにくい部分もあるが、この竜頭蛇尾で残念な感じすら映画の味になっている。

 だがこの映画の一番の魅力は、主人公ダニーを演じたカラム・ターナーにあると思う。ハンサムだがちょっと気弱で頼りなさそうな風貌が、ダニーというキャラクターにピッタリなのだ。善良で誠実な人柄が、彼の一挙手一投足から伝わってくる。およそ犯罪とは無縁のタイプなのだ。ヒロインのエリーは最初それに少しイライラするのだが、やがて彼の素朴で人懐こい人柄に好意を持つようになる。映画を観ている人も、おそらくみんな最後はダニーのことが好きになるに違いない。エリーを演じたグレース・ヴァン・パタンも、ちょっと下ぶくれ気味で庶民的な顔立ちなのが良い。ハリウッドのゴージャスな美人顔ではなく、可愛いけれどどこにでもいそうな女の子なのだ。取り立てて目立つことのないごく普通の若者たちが、ひょんなことで厄介な事件に巻き込まれて行くからこそ、観客は小さな出来事にもハラハラドキドキし、彼らの未来を応援したくなるのではないだろうか。

(原題:Tramps)

第29回 東京国際映画祭(コンペティション)
TOHOシネマズ六本木ヒルズ(スクリーン6)にて
配給:未定
2016年|1時間22分|アメリカ
公式HP: http://2016.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=31
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt4991512/

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