聖杯たちの騎士

12月23日(金・祝)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

どこをどう切ってもテレンス・マリックの世界

聖杯たちの騎士

 ハリウッドの脚本家として成功への道を歩み始めたリックは、自分の過去と現在を振り返る。頑固な父親と弟の確執、そして女たちとの生活のことだ。彼が愛した女たちは、ある者は心に突き刺さる深い痛みを、ある者は甘い思い出だけを残して、みんな彼のもとから去ってしまった。ハリウッドでの生活。ラスベガスの退廃的な風景。雄大なアメリカの自然。突然の成功に最初は戸惑っていたリックだが、すぐにその生活に馴染んでいく。ハリウッド人種の豪華なパーティーも、プール付きの豪邸も、今の彼にとっては日常の風景だ。その中でお遊びで付き合った女たちもいれば、互いに真剣な気持ちで付き合ったがゆえに、今も心に鋭いトゲのような思いが残る女性もいる。リックは何かを求めていたはずだ。何かを求めて、彼はハリウッドにやって来た。だが自分が何を求めているのかすら、彼にはもうわからなくなっている。答えのヒントを与えてくれるのは、女たちだろうか。

 テレンス・マリックの新作は、寓意に満ちた映像詩だ。タイトルの「聖杯たちの騎士」(Knight of Cups)は、タロットカードの絵柄のひとつ。映画はタロットカードの絵柄をたどるように、いくつかの章に分けられている。ただし明確なストーリーがあるわけではないし、明確なドラマがあるわけでもない。映像やタッチは『ツリー・オブ・ライフ』(2011)や『トゥ・ザ・ワンダー』(2012)の延長にある物だが、物語的な要素は最近のマリック作品の中でも最も乏しい。映画の中にバラバラに配置された断片的なエピソードをかき集めても、明確にストーリーを再構成することは困難だ。物語はすべてが回想のようにも見えるし、一部が回想で一部は現在進行形のようにも、あるいは一部が幻想のようにも見える。とても一度では全体像が把握できないのだが、じゃあこれを2度も3度も観るかと言えば、少なくとも僕はもう観ないんじゃないかなぁ……。

 作家性が強すぎる映画で、観る人を選ぶに違いない。物語は膨大な言葉で埋め尽くされているが、冒頭で引用されているのは17世紀に発表されたジョン・バニヤンの代表作「天路歴程」の冒頭部分。その後に印象的な形で引用されるのは、新約聖書外典「トマス行伝」の中の「真珠の歌」だ。「天路歴程」は巡礼の若者が洞窟の中で見た夢についての、教訓的で寓話的な物語。「真珠の歌」はほぼ全体が映画の中に引用されているが、東方から真珠を求めてエジプトに旅した若者が、いつしか自分の使命を忘れてしまうという物語。こうした引用と照らし合わせると、この映画で描かれた物語もまた、夢の世界の寓話的な物語だと解釈した方がいいのかもしれない。主演のクリスチャン・ベイル以下、キャスティングはじつに豪華。しかしどのエピソードもさらさらと流れ去ってしまい、さほどゴテゴテした印象は受けない。個人的には父親を演じたブライアン・デネヒーが良かった。

(原題:Knight of Cups)

センチュリーシネマ(センチュリー2)にて
配給:東京テアトル
2014年|1時間58分|アメリカ|カラー|2.35:1|ドルビーデジタル
公式HP: http://seihai-kishi.jp/
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt2101383/

Knight of Cups
Knight of Cups

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