ハクソー・リッジ

6月24日(土)公開 TOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー

地獄の戦場で、戦わない男は英雄になった

 1945年4月。激戦が続く沖縄のアメリカ軍前線基地に、ひとりの衛生兵がやってくる。名前はデズモンド・ドス。彼が同じ部隊の仲間たちから変わり者扱いされているのは、菜食主義のやせっぽちだったからではない。彼はセブンスデー・アドベンティスト教会の敬虔な信徒で、十戒の「殺すな」の掟を守るために銃を取らないことを信条としていたのだ。これが原因で訓練中には上官のしごきや周囲のいじめを受けることもあったが、「殺すのではなく、命を救いたい!」という決意は固く、こうして衛生兵として戦場にやって来ている。だが沖縄での戦いは、それ以前にデズモンドが経験してきたグアムやレイテの戦いとは比較にならない凄惨なものとなった。戦いの舞台は「ハクソー・リッジ」と呼ばれる高い断崖の上にある日本軍陣地。これを攻略しない限り、部隊は釘付けのままだ。激しい戦闘の中で、デズモンドは戦場に取り残された兵士たちを救出するため走り出す。

 メル・ギブソンにとって10年ぶりの監督作は、実話をもとにした戦争ドラマだ。主人公のデズモンド・ドスは実在の人物で、良心的兵役拒否者でありなら多くの仲間を救った功績で名誉勲章を受賞している英雄だ。主演はアンドリュー・ガーフィールド。映画の最後にはデズモンド・ドス本人のフィルムや写真などが紹介され、この映画が基本的には「再現ドキュメンタリー」であることを強く観客に印象づける仕掛けになっている。ただし物語の舞台となる戦場が沖縄なので、日本人としてはちょっと複雑な気持ちも……。映画の中にはまったく描かれていないが、この戦闘には多くの民間人も巻き込まれて犠牲になっているのだ。映画の中の残酷描写は凄まじい。しかしそこに、戦闘に巻き込まれて犠牲になった民間人の姿はない。この映画に登場する民間人は、アメリカ本土にいる主人公の家族だけだ。あくまでもこれは、「アメリカ人の立場から見た沖縄戦」なのだと感じる。

 すごい映画だとは思うのだが、正直言って、僕はもうひとつ気持ちが乗らなかった。それは「沖縄戦での日本人の描き方」以前の問題として、この主人公に感情移入しきれなかったからなのだ。映画はデズモンド・ドスという青年を、立派な人物として描き出す。彼は確かに立派な人物だ。立派な人物を立派に描いてどこが悪いのか。それは悪くない。悪くはないのだが、僕は映画の中の「立派じゃない人」に魅力を感じる。この映画で言えば、それは飲んだくれの父親だ。主人公と同じ訓練所でしごかれる、アメリカ各地から来たボンクラどもだ。主人公の周囲にはこうした魅力的人物も見られるのだが、主人公はどこを切っても優等生で面白味に欠ける。なまじ各登場人物にモデルがいるから、自由に脚色しにくかったのだろうか。訓練中に主人公をさんざん批判していた上官が、戦場で身動き取れなくなったところを助けられたのも実話だ。これは映画が、素材に負けているのだ。

(原題:Hacksaw Ridge)

109シネマズ名古屋(シアター2)にて
配給:キノフィルムズ
2016年|2時間19分|オーストラリア、アメリカ|カラー|シネスコ
公式HP: http://hacksawridge.jp/
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt2119532/

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