ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書

3月20日(火)公開 全国ロードショー

スピルバーグが撮ったフェミニズム映画

 1971年6月。ニューヨークタイムズ紙に掲載された政府機密文書にまつわるスクープに、競合紙のワシントンポスト編集部は色めき立った。この文書によれば、当時収拾のめどが立っていなかったベトナム戦争について、アメリカ政府が長年に渡って国民を騙していたことは明白だ。政府はこの報道に対して、機密情報保護やスパイ防止を理由に報道差し止めの裁判所命令を出すが、ワシントンポストはこの間に自分たちも同じ資料を入手し、特オチを一気に挽回しようと考える。だがこのことが、社内に大きな問題を生み出すことになる。当時ワシントンポスト紙は株式の市場公開によって、経営基盤の強化を図ろうとしている真っ最中だった。しかしこの機密文書報道で政府から目をつけられれば、新聞発行に対して様々な妨害を受けるだろう。場合によっては、新聞社は潰れていかねない。社主のキャサリン・グラハムは、社の存亡を賭けた究極の選択を迫られることになる。

 実話をもとにしたスピルバーグ監督作品で、主演はメリル・ストリープとトム・ハンクス。ストリープが演じるのは、ワシントンポスト紙の社主であるキャサリン・グラハム。正直言って、僕はこれを面白い映画だとは思わなかった。それはこの映画が描こうとしているテーマと、この映画のストーリー上のポイントがずれているからではないだろうか。ストーリーを一言で言うなら、これは「政治的な活劇」だ。アメリカ政府が長年に渡って隠していた秘密を、新聞が暴こうとする。政府は法律を盾にして、それを徹底的に妨害。新聞は裁判で政府と戦い、ついに勝利を収める。かくて報道の自由は守られた。民主主義万歳だ! だがこの話が、じつはまったく盛り上がらない。盛り上がらない理由は簡単で、この映画が本当に描こうとしているテーマは、このストーリーとは無関係なところにあるからだ。映画のテーマはキャサリンを通して描かれる「女性の社会的な自立」だろう。

 意外なことに思われるが、この映画の舞台である1970年代初頭のアメリカでは、女性の社会的な地位がきわめて低かった。女性は妻や母として家庭を守るのが仕事であり、社会に出ても男性の補助的な仕事に甘んじなければならなかった。例えば自宅に客を招いて食事をしたあとは、男性と女性がそれぞれの部屋に別れて同性同士で話をする。そんな19世紀の上流社会の風俗が、20世紀後半になってもまだ残っていたのだ。マスコミも政治の世界も、男性が主役だった。その中で、キャサリンは男性たちのさまざまな思惑の合間で揺れ動く。この映画が俄然熱を帯びるのは、彼女が記事を掲載するかどうかを自分自身で決断する場面だ。「新聞社は父のものでも夫のものでもない。それは私のものだ!」と宣言することで、彼女は社会のしがらみから抜け出し自立するのだ。裁判所から出てきた彼女を、「働く女性たち」が無言で取り囲む場面は、物語とは無関係だが感動的だ。

(原題:The Post)

ミッドランドスクエアシネマ(スクリーン6)にて
配給:東宝東和
2017年|1時間56分|アメリカ|カラー|1.85:1
公式HP: http://pentagonpapers-movie.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt6294822/

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