フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

 5月12日(土)公開 新宿バルト9ほか全国順次公開

子供にとって安モーテルが全世界だった!

 フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートは、ディズニー社が経営する世界最大のアミューズメントリゾート施設だ。だが世界各地から来る観光客を迎える「夢の国」の外側には、廃墟と化した別荘地や商業施設、安モーテルがひしめき合っている。6歳の少女ムーニーは、母のヘイリーとそんな安モーテルのひとつで暮らしている。同じモーテルには似たような境遇の家族が長期滞在しているが、ヘイリーは仕事を失って週払いの部屋代にも窮する状態。それでもムーニーと仲間の子供たちの夏休みは、毎日が驚きと冒険に満ちている。モーテルの雇われ支配人ボビーは、支配人としての職分と限界を十分に自覚した中で、モーテルで暮らす人たちや子供たちを見守っている。貧乏人の寄り合い所帯であるモーテルがかろうじて安全と秩序を保っているのは、彼の働きによるところが大きいのだ。だがムーニーとヘイリー母娘の暮らしは、さらに過酷なものになっていく。

 まるでドキュメンタリー映画のようなリアルさを感じさせる映画だった。基本的に全編BGMなしで、映像も無加工の撮りっぱなしのような雰囲気。ほとんどのキャストが無名で、実際に安モーテルに暮らしているような生活感がプンプン漂ってくる。これで主要キャストのひとりがウィレム・デフォーでなければ、観客はここにいる登場人物たちの窮状を観ていたたまれない気分になったに違いない。最近は日本でも「子供の貧困」が言われるが、貧困とは食べるに困って半死半生になることではない。この映画に登場する子供たちは誰もが間違いなく貧困の中にあるが、ここに飢えている子供は誰もいないのだ。子供たちには子供たちの世界があり、そこは毎日が冒険とスリルに満ちている。貧しい親や保護者たちの生活振りにはかなり問題もあるが、それでもここには子供に向けられる温かい眼差しと愛情がある。それがかえって、この映画の世界に欠けているものを際立たせる。
 
 この映画に出て来ないのは、経済的な豊かさだ。すぐ目と鼻の先にディズニーワールドがあり、周囲には観光客向けの高級リゾートホテルが点在している。しかしその豊かさの恩恵に、子供たちがあずかることはない。父親の不在も、この映画に隠された大きなテーマだと思う。主人公ムーニーに父はいない。遊び仲間のスクーティーも母子家庭だし、ジャンシーは祖母に育てられている。だがここに登場する母親や祖母のなんと力強いことか。それに比べて、映画に登場する父親は無力だ。ある父親は子供の養育を放棄し、別の父親は家族を放り出して女遊びをしている。その中で父親的に振る舞うのが、ウィレム・デフォーが演じる管理人のボビー。だが詳しく説明されてはいないが、彼もまた家族を捨てたか、家族に捨てられた男なのかもしれない。スケッチ風に淡々と描かれる物語は、終盤になって大きく動き出す。この映画の劇的なラストシーンにはつい泣かされてしまった。

(原題:The Florida Project)

ミッドランドスクエアシネマ2(スクリーン14)にて
配給:クロックワークス
2017年|1時間51分|アメリカ|カラー|シネスコ|DCP5.1ch
公式HP: http://floridaproject.net/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt5649144/?ref_=fn_al_tt_1

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