アリー/スター誕生

12月21日(金)公開 TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー

男の苦しさを描いた21世紀版リメイク

 ウェイトレスとして働きながら時折地元のドラァグ・バーで歌を披露するアリーは、たまたま店を訪れたカントリー歌手ジャクソンに見出され、彼のステージに出演するようになる。ふたりが恋人同士になるのに時間はかからなかった。アリーの圧倒的な歌唱力とソングライターとしての才能は注目を集め、やり手のマネージャーも付いて、彼女はスターへの階段を駆け上がっていく。ジャクソンは彼女を応援しつつ、彼女が自分の知らない「スター」に成長して行くことに複雑な気持ちを味わっている。彼にはもともと難聴の持病があったのだが、この頃は耳鳴りもひどくなり、失聴の恐怖を紛らわせるように酒とクスリの量が増えていた。アリーと出会って多少の落ち着きが見られるようになったが、アリーの仕事が忙しくなるとすれ違いも増え、再び酒の量が増えていった。その年のグラミー賞授賞式。受賞したアリーの目の前で、ジャクソンは取り返しの付かない事件を起こす。

 ワーナー映画の十八番である『スター誕生』4度目の映画化作品。物語の舞台が音楽業界になっている点で、今回の映画は1976年のバーブラ・ストライサンド版がベースになっている。バーブラの相手役を演じたのはカントリー歌手でもあるクリス・クリストファーソンだったが、今回の映画でブラッドリー・クーパーが演じているジャクソン・メインもカントリー歌手だ。長い髪にひげを蓄えた風貌や、低音で少ししゃがれた声も、クリストファーソンによく似ていると思う。なお本作はクーパーの監督デビュー作でもある。監督自身が演じているせいか、これまでの『スター誕生』(といっても僕は1937年のオリジナルを未見だが)に比べて、ヒロインの夫のキャラクターをかなり掘り下げている。というよりむしろ、今回の映画の主人公はレディ・ガガ演じるアリーではなく、夫のジャクソンなのだ。押しも押されもせぬスターの座から、徐々に転落して行く男の悲劇だ。

 物語の骨格自体は80年前から変わらぬ『スター誕生』で、「有力者である男性スターが、才能はあるが無名のヒロインを世に出していく」という物語の前提に古さを感じてしまう。この世は男の方が社会的な地位が上で、弱い立場の女性をエスコートするのだ。過去の『スター誕生』ではこうした男女間の立場の違いに社会的な合意があればこそ、その前提の崩壊が悲劇を生むことに観客も納得できた。しかし現在はそれが通用しにくくなっているため、本作ではジャクソンの悲劇に向けて二重三重の伏線を張って彼を追い込んでいく。父親との関係、兄との関係、耳の障害の問題、そしてアルコールと薬への依存。これらはアリーと知り合う前から、ジャクソンの心と体を深く蝕んでいる。アリーの存在は彼の悲劇のきっかけではなく、もっと早く訪れるはずの悲劇を先延ばしして、彼に最後の幸福な時間を作る役目を果たしたのかもしれない。もちろんそれでも、悲劇は悲劇だが。

(原題:A Star Is Born)

ミッドランドスクエアシネマ2(シアター8)にて
配給:ワーナー・ブラザース映画
2018年|2時間16分|アメリカ|カラー|2.39:1
公式HP: http://wwws.warnerbros.co.jp/starisborn/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt1517451/

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