こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話

2018年12月28日(金)公開 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー

大泉洋主演の実録難病ドラマ

 1994年の札幌。医学生の田中と交際中の美咲は、彼がしばしば「ボランティア」と称して約束をすっぽかすことに不信感を募らせる。ひょっとして彼は、浮気しているんじゃないだろうか? 予告なしに田中のボランティア先を訪ねた美咲は、そこで大勢の若い女性ボランティアに囲まれてご満悦の、鹿野という男に出会う。筋ジストロフィー(全身の筋力が衰えていく難病)患者である彼の自立生活を支えるため、大勢の生活支援ボランティアが無償で働いている。田中もそんなボランティアのひとりなのだ。美咲を田中が勧誘した新しいボランティアだと勘違いした鹿野は、一目で彼女を気に入り夜中のシフトにも強引に入れてしまう。自分のために働くボランティアを当然のようにこき使い、あれこれ命じて好き放題に振る舞う鹿野に、美咲のイライラは募るばかり。田中が自分のことを、交際相手だと紹介しないことにも腹が立っている。その怒りがある日ついに爆発する。

 大泉洋主演の実録難病ドラマで、彼が演じる鹿野靖明(1959〜2002)は実在の人物。しかし映画はこの難病患者の視点ではなく、彼の生活を支えたボランティアの視点で綴られていくのがミソだ。ヒロインの美咲は何の予備知識もなく鹿野の生活支援(介護)の現場に入り込んでしまうため、同じように何の予備知識もなく映画を観ている観客と同じ視点で現場を眺め、観客の疑問や不満の代弁者になる。有名人の伝記映画では、しばしば新聞記者やインタビューアーが物語を紐解いていく狂言回しになる。この映画はそれを、美咲というヒロインに託しているのだ。伝記映画ではこうした狂言回しの疑問や質問に答える形で、主人公の生涯が回想形式で語られるのが定番のパターン。しかしこの映画は回想をほとんど使わず、すべてのエピソードを美咲の目の前で起きる現在進行形のドラマとして紡いでいく。この構成によって、観客は美咲の難病介護の現場に立ち会うのだ。

 面白い映画ではあったし感動的ではあるのだが、僕にはもう少し物足りない部分も多かった。生活支援のボランティアは確かに大変だろうが、学生やフリーターの身分ならそれも不可能ではないと感じるのだ。僕はこの映画で萩原聖人や渡辺真起子、宇野祥平らが演じている、中年のベテラン・ボランティアたちの姿をもう少し掘り下げて欲しかった。彼らは自分たちの仕事があり、生活があり、家庭があるにも関わらず、献身的に鹿野のボランティアを続けている。それはなぜだろう。何が彼らの行動の原動力になっているのだろうか。この映画で一番、ある意味で感動的なのは、寝不足でフラフラになった宇野祥平が鹿野の病室でキレる場面だ。この一瞬の場面に、この映画が「愛しき実話」から割愛してしまった、きれい事では済まされない難病患者と支援者の真実があるのではないだろうか。もっともこうした周辺人物たちを部分を掘り下げるには、映画はあまりに時間が短い。

ミッドランドスクエアシネマ(スクリーン2)にて
配給:松竹
2018年|2時間|日本|カラー
公式HP: http://bananakayo.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt9010228/

こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち (文春文庫 わ)
渡辺 一史
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