ファースト・マン

2月8日(金)公開 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

カリスマ宇宙飛行士の孤独な世界

 1961年。NASAのテストパイロットであるニール・アームストロングは、ロケット機X-15のテスト飛行中、制御できなくなった機体を何とか着陸させることに成功した。だが現在彼を悩ませているのは仕事のことではなく、幼くして脳腫瘍を患う娘カレンのことだ。家族の祈るような願いと治療のかいもなく、カレンは2歳半の短い生涯を閉じる。このことは、ニールの心を深く傷つけることになった。彼はその後ジェミニ計画の飛行士に応募して、苛酷な訓練の日々を送るようになる。1966年。ニールが船長を務めるジェミニ8号は、無人衛星とのドッキングに成功。一時は操作不能になる危機的な状況となったが、ニールの的確な処置で無事帰還を果たした。その翌年、悲劇的な事故が宇宙飛行士たちを襲う。発射台のアポロ1号が火災事故を起こし、飛行士3人が死亡したのだ。それでも計画は進んで行く。ニールは月着陸を目指すアポロ11号の船長に選ばれた。

 アポロ11号で月面に人類最初の一歩を記した宇宙飛行士、ニール・アームストロングの伝記映画。原作はアームストロングの公認伝記「ファースト・マン/初めて月に降り立った男、ニール・アームストロングの人生」。1930年生まれのアームストロングは、2012年に82歳で亡くなるが、映画はその長い生涯から、1960年代の9年弱を切り取っている。それは彼の人生の中でも、最も世界の注目を浴びた華やかな時代だが、映画はその華やかさの裏にある彼や家族の孤独を描いている。テストパイロットにとって、あまりにも身近な「死」の問題。しかしそれは、家族の間ではもちろん、仲間内でもタブーになっている話題だ。誰もが死を身近に感じるが、それについて口に出して語ろうとはしない。だからこそ、いよいよ月ロケットに乗り込もうとする前夜になって、アームストロングがようやく子どもたちと話をする場面が、この映画のクライマックスにもなるのだ。

 アポロ計画はそれだけで壮大なドラマだし、その背後には米ソ宇宙開発戦争や東西冷戦という巨大な歴史の動きもあった。しかし映画はそうした大きな物語を背景に追いやって、アームストロング夫妻から見た小さな世界と小さな物語を掘り下げていくのだ。物語はどんどん小さな世界に収束し、最後はアームストロングと2歳半で亡くなった娘の物語に凝縮されていく。普通の映画は個人の小さな物語が、より大きな物語とつながっていく展開になることが多い。しかしこの映画はその正反対に、誰もが知る巨大な物語が、誰も知らない小さな世界につながっていく。その小さな世界の、なんと慎ましく、センチメンタルなことか。だがこの慎ましくセンチメンタルな世界を経由して、今からちょうど50年前の月面に立つ英雄は、我々観客にとっても理解できる一人の男になる。『ライトスタッフ』(1983)や『アポロ13』(1995)とは、様子がだいぶ違う映画になった。

(原題:First Man)

109シネマズ名古屋(シアター7)にて
配給:東宝東和
2018年|2時間22分|アメリカ|カラー
公式HP: https://firstman.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt1213641/

ファースト・マン 上: 初めて月に降り立った男、ニール・アームストロングの人生 (河出文庫)
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