凪待ち

6月28日(金)公開 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

香取慎吾が何もかも失うダメ男を好演

 東京の印刷会社を辞めて、恋人の亜弓と彼女の娘・美波と共に、宮城の石巻に引っ越すことになった郁男。石巻で漁師の仕事を続けながら一人暮らしをしている亜弓の父が、最近末期がんの宣告を受けたのだ。郁男は石巻の小さな印刷所で働くようになり、亜弓は小さな美容院を開く。東京では引きこもりがちだった美波も、地元の定時制高校に通うようになった。順風満帆とは言わぬまでも、家族にとってはまず順調な船出。だがそうなればなったで、亜弓はあれこれ小言を言って娘と衝突する。ある日、母とケンカをした美波は家を飛び出して、夜遅くまで戻ってこなかった。電話もつながらない。亜弓はすっかり取り乱し、夜の街で美波を探し歩く。そんな様子を半分呆れたように見つめる郁男。結局美波は郁男がひとりで見つけたのだが、無事を知らせるため亜弓に電話をかけると、電話口には知らない男が出た。相手は警察。郁男と別れた後、亜弓は何者かに殺されたのだ。

 物語の序盤に殺人事件があり、最後はその犯人が見つかるのだから、筋立てとしては犯罪ミステリーの形になっている。しかし映画は犯人探しにあまり興味がないようだし、被害者の恐怖とか、殺人犯の異常性とか、遺族の悲しみや苦しみというものにも、必ずしも関心を示していない。この映画が描いているのは、完全に根無し草になった男が、いかにして生きるかという物語なのだ。主人公の郁男には、本当の家族い言える存在がない。ほとんど内縁関係の亜弓に結婚を申し込む勇気もなく、かといって別れるわけでもなくズルズルと一緒にいる。結婚しようとすればできるのに、彼はあえて自分でそうした関係を望んでいるのだ。このだらしない立場が如実に表れているのは、亜弓が殺された後の葬儀の場面だろう。彼は親族の席ではなく、一人だけ一般参列客の席にいる。親族席にいたいなら、美波も亜弓の父も喜んで彼を迎えただろう。だが郁男は自分の意思でそうしない。

 こうした郁男と周囲の人間たちとの距離感は、郁男と石巻の関係にも通じ合う。彼は縁あって移り住んだ石巻に根を下ろすわけでも、離れて行くわけでもないまま、フラフラと漂っている。離れて行く理由はいくらでもあっただろう。だが彼が行くべき場所も存在しない。以前暮らしていた場所もまた、彼自身の居場所ではないからだ。郁男には居場所がない。居場所のない男が、最も親しい関係にあった伴侶を奪われ、仕事を失い、唯一彼の居場所で会ったギャンブルからも閉め出され、人間としての尊厳をすべて奪い取られる。映画は主人公をそこまで追い込む道具立てとして、殺人事件やギャンブル癖というものを取り込んでいるようにも思える。映画が犯人探しに熱心でないのはそのためなのだ。犯人探しが始まってしまえば、そこで主人公の郁男に生きる目的が生まれてしまう。映画はそれさえも郁男から奪い取る。この主人公の追い詰め方には、へんなリアリティがある。

ミッドランドスクエアシネマ2(シアター10)にて
配給:キノフィルムズ
2019年|2時間4分|日本|カラー
公式HP: http://nagimachi.com/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt10574728/

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