約束

7月12日(金)公開 ミッドランドスクエアシネマ

男と女の映像詩

 公園のベンチで、中年の女がひとり誰かを待っている。だが待ち人は現れない。それでも女は待ち続ける。いったい誰を? 物語は2年前にさかのぼる……。女は列車に乗っていた。日本海沿いを北に向かって走る、混み合った特急列車だ。彼女の前の空席に、若い男がすべり込んでくる。顔の上に新聞を広げて眠りはじめた男。その新聞の見出しにある殺人事件の記事を見て、何かを思いだしたように女の顔が一瞬曇る。女が体を伸ばすため席を立つと、眠った男の顔から新聞が滑り落ちた。あわてて載せ直すがうまくいかない。女は自分の髪からヘアピンを1本抜くと、新聞を男の襟元に留める。やがて男は目を覚まし、新聞を留めていたヘアピンに気付く。「これあんたのかい?」。そんな風にして、男と女は出会った。やけに人懐っこく馴れ馴れしい若い男に女は苦笑しながら、それでもふたりは少しずつ距離を縮めていく。自分たちが恋に落ちるなど、まだ知らぬまま……。

 岸惠子と萩原健一主演のメロドラマ。監督は斎藤耕一。音楽は宮川泰。脚本は石森史郎だが、原案には金志軒(キム・ジホン)の名がある。これは1966年に製作された韓国映画『晩秋』のリメイクなのだ。『晩秋』は本作も含めて4回もリメイクされた人気作品だというが、この『約束』も名作だ。罪を犯して服役中の女が、母の墓参りのために短期感の仮出所を許される。そうとは知らずに声をかける若い男は、罪を犯して警察から逃げている。ふたりは互いの境遇を知ってか知らずが恋に落ち、女は自分が出所する2年後の再会を約束して男と別れる。しかし男はその直後に逮捕され、ふたりが再び会うことはないのだ。再会を約束した小さな公園で、じっと待ち続けるヒロインの表情が悲しい。化粧っ気のないスッピンの岸惠子が、男と待ち合わせた旅館の部屋で、備え付けの粗末な化粧品で何年かぶりに化粧をする場面も忘れがたい。女の凄味を感じさせる静かな熱演だ。

 映画紹介などでは、ヒロインは男が逮捕されたことを知らなかったのだと書かれていることが多い。でも、そうなんだろうか? 今ならインターネットですぐに知人の消息を調べられるが、映画が作られた昭和40年代後半にそんなものはない。だから彼女は、男が来られないことを知らなかったと考える人が多いのだろう。作り手も、そのつもりで映画を作ったのかもしれない。でも彼女は服に付いた血から、男が何らかの犯罪に手を染めたことを知っていたはずだし、同じ暗い過去を持つ者同士として彼と惹かれ合ったのだ。彼女は、男が来られないことを知っていたのだと思う。それでも彼女は、その公園にやって来て、来るはずのない男を待ち続けたのだ。なぜなら彼女にとって、そこしか行く場所がなかったから。都はるみの「北の宿から」のヒロインが、着てはもらえぬセーターを涙こらえて編んでいたようなものだ。昭和テイスト。でも映画はじつにモダンなタッチだ。

ミッドランドスクエアシネマ(シアター7)にて
配給:松竹
1972年|1時間28分|日本|カラー|シネマスコープ|モノラル
公式HP: http://www.midland-sq-cinema.jp/movie_detail/21120
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt0224421/

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