COLD WAR あの歌、2つの心

6月28日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町

愛すればこそ苦しむ恋人たち

 第二次大戦直後のポーランド。国内各地の民族音楽を収集しながら、若い歌い手や踊り手を捜し求める人々がいた。彼らは国立音楽舞踊団のメンバーを集めているのだ。スカウト活動に参加していた音楽家のヴィクトルは、オーディションに参加したズーラという歌い手に目を引かれる。彼の推薦で入団したズーラはたちまち花形歌手として脚光を浴びるようになり、ヴィクトルとの間に恋愛関係も芽生えた。だが政府の監視を受けるようになっていたヴィクトルは、舞踏団の東ベルリン公演を機会に西側に脱出。彼はもともとズーラと一緒に亡命するつもりだったが、彼女はなぜか待ち合わせ場所に現れなかった。数年後。パリでジャズピアニストとして活動していたヴィクトルは、公演でパリにやって来たズーラと再会する。その後何度かのすれ違いを経て、ふたりはようやくパリで一緒に暮らすようになった。だが気性の激しいズーラは、頑固なヴィクトルとの衝突も多かった。

 『イーダ』(2013)のパヴェウ・パヴリコフスキ監督が、冷戦時代を背景に描いたラブストーリー。といってもこれは、鉄のカーテンに阻まれたロミオとジュリエット物語というわけではない。映画の中でヴィクトルはカバンひとつ持って、簡単に東ベルリンから西ベルリンに徒歩で越境している。東西ベルリンの境界が封鎖され、壁が作られたのは1961年。それまで東ベルリンと西ベルリンはこれといった手続きもなしに、誰でも簡単に越境可能だったのだ。ヴィクトルが西ベルリン経由でパリに脱出した時代に、ベルリンの壁は存在しない。また一度西側に渡ったとしても、その人物が東側のソ連衛星国に入国することは容易だったらしい。まるで近所に買物にでも行くような気安さで、鉄のカーテンの隙間を出たり入ったりする主人公たちの姿を見ると、冷戦時代に東西間でスパイ合戦が起きるのも無理はないと痛感する。もちろん主人公たちはスパイではないのだが。

 映画が描いているのは、自分たちにとって居心地のいい場所を探しあぐねている恋人たちの悲劇だった。ヴィクトルは東側での暮らしに息苦しさを感じ、西側の暮らしの中でのびのびと自由に羽を伸ばせる。ズーラは東側の暮らしに適応し、西側にいると自分を見失ってしまうような不安を感じる。ならばふたりは西と東に分かれて暮らせばいいのだが、不幸なことにふたりは愛し合ってしまった。彼らは愛し合って一緒にいたいと願うが、ヴィクトルは東側では暮らせないし、ズーラは西側では暮らせない。彼らはどこにも、ふたりで安楽に過ごせる場所がない。それでも一緒にいたいと願うなら、向かう場所はひとつしかない。彼らが愛し合えば愛し合うほど、映画の結末は不可避なものになっていく。この映画で最大の悲劇は、当時の社会情勢が生み出したものではない。ヴィクトルとズーラが出会い、愛し合ってしまったこと自体が悲劇なのだ。愛は時にひどく残酷なものだ。

(原題:Zimna wojna)

伏見ミリオン座(ミリオン4)にて
配給:キノフィルムズ
2018年|1時間28分|ポーランド、イギリス、フランス|モノクロ|スタンダード
公式HP: https://coldwar-movie.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt6543652/

Cold War (Original Motion Picture Soundtrack)
Editions Milan Music (2018-12-21)
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