ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

8月30日(金)公開 TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー

タランティーノが作った夢のハリウッド

 1969年のハリウッド。テレビ西部劇で一世を風靡した俳優のリック・ダルトンは、番組打ち切り後に何本かのB級アクション映画に出演した後、これといっためぼしい役にありつけないまま「往年のスター」扱いされつつあった。時々回ってくる役は、テレビ映画にゲスト出演する悪役ばかり。彼に忠誠を尽くす専属スタントマンのクリフ・ブースも、今では身の回りの世話をする雑用係のようなありさまだ。そんな彼の家の隣に最近引っ越して来たのは、『ローズマリーの赤ちゃん』の大ヒットで時代の寵児となっているロマン・ポランスキー監督と新妻シャロン・テート。成功の上り坂を駆け上がる者と、同じ坂をゆっくり下って行く者の悲しい対比だ。リックにはイタリア製西部劇への出演依頼があるが、ハリウッドで一度は時代の寵児となった男にとって、イタリアへの都落ちはプライドが許さない。同じ頃、ハリウッドでは危険なカルト集団が勢力を伸ばしつつあった。

 クエンティン・タランティーノ監督の新作は、1969年のハリウッドを舞台にした映画業界人たちの物語。製作開始時に「タランティーノの新作はシャロン・テート事件がモチーフだ」と言われていたのだが、タランティーノが事件をどう描いているかを読み解き、楽しむためにも、この映画を観る人は事前に事件について調べておいた方がいいだろう。1969年8月9日は、女優シャロン・テートが自宅で惨殺された日なのだ。これはハリウッド映画史に残る猟奇犯罪事件だが、この映画はその凄惨な事件が起きた日のハリウッドを、虚実ない交ぜで緻密に再現していく。そこには実在の人物も、実在の映画も、実在の出来事も描かれるが、その合間に、映画のために創作された人物や、映画や、出来事が織り込まれていく。映画のタイトルは「むかしむかし……ハリウッドで」という意味だが、この映画に登場するハリウッドは、タランティーノが創作した夢のハリウッドだ。

 出演者の中では、ブラピがとにかく良かった。寡黙なタフガイを存在感たっぷりに演じていて、どこからどう観てもブラピなのだが、これまでに観たことがない新しいブラピを感じさせる。ディカプリオも悪くないのだが、今回の演技は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)でも一度観たことがあるような気がして、プラピの新鮮さに負けていると思う。同じ『ウルフ・オブ〜』に出ていた役者でも、今回シャロン・テートを演じたマーゴット・ロビーは可愛かった。これは演技がどうこうではないのだ。タランティーノはこの映画で、「有名な猟奇殺人事件の被害者になった新進女優」として知られているシャロン・テートを、改めてスクリーンに蘇らせた。たぶんこの映画のシャロンは、本物の彼女よりも理想化されている。でもそれがいいのだ。自分の出演作が上映されている映画館で、自分の出演シーンを見ながら幸せそうに微笑む彼女の汚れた足の裏が最高!

(原題:Once Upon a Time… in Hollywood)

109シネマズ名古屋(シアター7)にて
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2019年|2時間41分|アメリカ|カラー|2.39 : 1|ドルビー・デジタル
公式HP: http://www.onceinhollywood.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt7131622/

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