アイネクライネナハトムジーク

9月20日(金)公開 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

悪い話ではないが淡白で薄味

 仙台駅前の大型モニターには、日本人初のヘビー級タイトルマッチの様子が生中継されていた。マーケットリサーチ会社に勤める佐藤は、そんなこととは関係なしに街頭アンケートを行っている。ほとんどの人が見向きもしないまま通り過ぎていく中で、快く協力してくれたリクルートスーツ姿の若い女性。他愛のない会話を交わしただけで別れたが、彼女は佐藤の心に忘れがたい印象を残した。佐藤は仕事もできるし、見た目も性格も悪くない。だが恋人はいない。これまでに、いい出会いがないのだ。早くに結婚した大学時代の友人・織田は、運命の出会いなんてものは言い訳に過ぎないという。誰かを好きになって、付き合って、何なら結婚して、何年もした後に、あの時の出会いは運命だった、この人と出会えて良かったと思うんじゃないか? 織田の説明は、佐藤にはわかったようでよくわからない。それからしばらくして、佐藤はある場所であのアンケートの女性と再会する。

 伊坂幸太郎の同名小説を、今年『愛がなんだ』が大いに話題になった今泉力哉監督が映画化したラブストーリー。複数の登場人物が物語を織りなしていく群像劇だが、物語の途中で時間がいきなり10年後にジャンプする構成はユニーク。佐藤を演じる三浦春馬、恋人・紗季役の多部未華子など、出演者も豪華で多彩。しかし映画作品としてはどうも薄味で、『愛がなんだ』のようながっちりした手応えを感じることはできなかった。結局この映画は恋に不器用な善人ばかりが出てきて、最後はみんなハッピーエンドという予定調和の世界なのだ。もちろんこの予定調和は心地よく、ある面ではリアルでもある。誰も彼もがそうそうドラマチックな恋愛をしているわけではないし、そもそもこれは、映画やドラマで描かれる「運命の恋」や「ドラマチックな恋」を批判する作品でもある。しかしそれでも、何の引っかかりもなくするすると通り抜けて行くこの感覚が物足りなさすぎるのだ。

 複数のエピソードが同時進行していく映画だが、中心になるのは佐藤と紗季のエピゾードだ。映画では佐藤の気持ちは深く掘り下げられ、周囲のエピソード(上司や友人たち)も巧みに配置されているのだが、その相手である紗季の人物描写が手薄になっていると思う。映画を観ていても、僕には紗季がよくわからないのだ。これは脚本の段階で、この人物が深く掘り下げられていないからだと思う。彼女は佐藤と同棲中だ。それが結婚を巡る言葉と気持ちの行き違いから、実家に帰ってしまった。そこで彼女は何を考え、何をしていたのだろうか。映画には彼女と佐藤の関係は描かれ、職場の様子も少し出てくるが、彼女の親しい友人も家族も出て来ない。映画の中の人間は他の人間との関係性の中で性格や行動を描くしかないのだが、この映画に登場する紗季は常に佐藤の目から見た紗季でしかない。その佐藤は紗季がよく理解できないのだから、観客にも紗季が理解できっこないよ。

ミッドランドスクエアシネマ2(シアター14)にて
配給:ギャガ
2019年|1時間59分|日本|カラー
公式HP: https://gaga.ne.jp/EinekleineNachtmusik/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt8228906/

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伊坂 幸太郎
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