惡の華

9月27日(金)公開 全国ロードショー

お前はド変態のクソムシ野郎だ!

 中学2年生の春日高男は、自分を取り囲む環境にうんざりしていた。ボードレールの詩集「惡の華」の世界に耽溺しながら、自分以外にそんなものを理解する人は誰もいない。友人たちが興味津々にセックスの話ばかりしているのもくだらない。だがそんな春日にも、気になる女子生徒がいる。それは他の男子生徒も憧れている佐伯奈々子。ある日教室に忘れ物を取りに戻った春日は、棚から落ちている彼女の体操着をふと拾い上げ、そのまま家に持ち帰ってしまった。翌日そっと返そうと思ったが、既に「体操着が盗まれた」と大騒ぎでそれどころではない。何もできないまま家路につく春日に、クラスの中でも嫌われ者の女子生徒・仲村佐和が声をかける。彼女は春日が体操着を盗んだことを知っていた。仲村は春日の弱みに付け込んで、強引にひとつの契約を交わす。それは春日が仲村の言うことを、何でも聞かねばならないというもの。仲村の要求は、過激で変態的なものだった。

 押見修造の同名コミックを、井口昇監督が映画化した凄惨な青春ドラマ。登場人物たちの激しすぎる行動には驚かされるが、主人公の境遇は自分との共通点も多くて共感できる部分が多かった。周囲を山に囲まれた田舎町の、読書好きの中学生。中学生にしては早熟な本を読んで、「こんなものは他の誰にも理解できまい」と上から目線で周囲を見ていたりするところは、まさに中学生の時の僕もそうだった。(ボードレールは読まなかったけれど、澁澤龍彦は読んでいたような気がする。)そうした高踏的な内面を持ちながら、思春期の中学生として人並みに女の子に興味があったりするところも、嫌になるぐらい自分に似ている。おそらくこれは、原作者の押見修造や、監督の井口昇も同じような思春期を過ごしたのではないだろうか。僕が春日と違うのは、幸か不幸か仲村さんに出会わなかったことだ。もし彼女に出会っていたら、僕も「山の向こう」を目指していたかもしれない。

 人間は「周囲のみんなと同じ」ことに安心する一方、「周囲のみんなと違う」ことに自尊心を満足させるものだ。これは矛盾しているようだが、どちらも人間が持つ根源的な欲求だろう。人間は成長する中で、このふたつの欲求に何からの折り合いを付けていくものだ。だが本作のヒロインである仲村は、その折り合いを上手く付けられない不器用な少女だ。彼女はそもそも「周囲のみんなと同じ」ことができない。しかも「周囲のみんなと違う」自分が誰にも受け入れられないことに苦しんでいる。彼女が春日に執着するのは、彼女から見た春日に自分と同じ苦しみを見たからだ。だが彼女は文学少年の春日と違ってボキャブラリーが豊かではないので、それを「変態」とか「ド変態」という言葉で粗雑にくくってしまう。彼女は自分の切実な思いを、周囲に伝える言葉すら持てない。地団駄を踏みながら「つまんない、つまんな、つまんない!」と叫び続ける。その叫びが切なすぎる。

センチュリーシネマ(センチュリー2)にて
配給:ファントム・フィルム
2019年|2時間7分|日本|カラー
公式HP: http://akunohana-movie.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt9554316/

惡の華(1) (週刊少年マガジンコミックス)
講談社 (2012-10-17)
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