楽園

10月18日(金)公開 全国ロードショー

これが田舎暮らしのリアルだ

 田園風景の中で、高齢化と人口減少が続く地方の小さな町。そこから1人の少女が消えた。小学校の帰り道にY字路で友人と別れた後、そのまま行方不明になったのだ。町中総出の捜索が行われるが、見つかったのは置き去りにされたランドセルだけだった……。それから12年後。消えた少女と最後に一緒にいた紡は、中古品の移動販売をしている豪士と親しくなる。豪士は子供の頃、母親と一緒に難民として日本にやって来た。友人も少なく、周囲からは孤立している。紡は豪士の孤独に、自分自身の孤独を重ね合わせたのだ。だが村祭りの夜、再び村で少女が行方不明になる。村人たちから「あいつが怪しい。12年前の事件もあいつが」と名指しされたのは豪士だった。人々は豪士が暮らす家に殺到し、帰ってきた豪士を追いかけ回す。そこにあるのは明確な殺意だった。豪士はあわてて近くの店に飛び込み、片言の言葉で助けを求めるが通じない。そして、凄惨な事件が起きる。

 吉田修一の「犯罪小説集」から、「青田 Y 字路」と「万屋善次郎」という2本の短編を映画化した作品。オムニバス映画ではなく、ふたつの物語を一部重ね合わせながらひとつの映画にしている。ただしもともと独立していた物語を合流させて、ひとつにまとめられたかどうかはやや疑わしい。映画は「罪」「罰」「人」という3つのパートに分けてあるが、この構成も少し歯切れが悪いような気がする。単純に「青田 Y 字路」と「万屋善次郎」のパートに分けて、人物を少しずつオーバーラップさせるオムニバス形式にする方法もあったと思うのだが、たぶん映画の作り手はそうしない理由があったのだろう。しかしその理由がわかりにくい。監督・脚本は瀬々敬久。映画のムードや個々のシーンには素晴らしいものがあるのだが、それがうまく噛み合って着地していないのは残念。三幕構成のタイトルの付け方なども含めて、作為が先行して内実が伴っていないように感じた。

 そんなわけで物語は上滑り気味ではあるのだが、映画に出てくる田舎町の描写にはぞっとするようなリアリティがあった。病院や公営住宅があり、祭りの時期にはそれなりに人が集まることから、その地域ではそこそこの規模の町だったことがわかる。だが若者は学校を卒業すれば大都市に出て行って戻らず、残っているのは老人ばかり。都会からUターンで戻って来た50過ぎの男が、地域の寄り合いの中で完全に「若造」扱いされている。生まれて一度も村から出たことがない男たちが、何十年もかけて形成した濃密な人間関係の中に、Uターン男は10年以上住んでいても馴染めない。彼は結局よそ者なのだ。映画のタイトルは『楽園』だが、英語タイトルは「The Promised Land」だ。そこは、乳と蜜の流れる約束の地。Uターン男はその土地で、蜜蜂を飼っている。しかし父祖たちから受けついだその土地は、男にとって決して暮らしやすい土地ではなかった。

ミッドランドスクエアシネマ2(シアター11)にて
配給:角川映画
2019年|2時間9分|日本|カラー
公式HP: https://rakuen-movie.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt10261338/

犯罪小説集 (角川文庫)
犯罪小説集 (角川文庫)

posted with amazlet at 19.10.20
吉田 修一
KADOKAWA (2018-11-22)
売り上げランキング: 375

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中