真実

10月11日(金)公開 全国ロードショー

是枝監督最新作は舞台劇のにおい

 フランスを代表する大女優ファビエンヌ・ダンジュヴィルが、自伝「真実」を発行する。それを記念して、アメリカで働いている娘リュミールもフランスに戻ってくる。夫のハンクと、娘のシャルロットも一緒だ。久しぶりの再会を喜び合う母と娘だが、家族の関係はどことなくぎこちない。この家族は、必ずしも関係良好というわけではないのだ。その原因の多くは、ファビエンヌの強烈な自我によるものだった。「真実」と題された自伝も、リュミールが読めば嘘ばかり。彼女にとって何よりも不満なのは、自伝の中に大好きだった伯母が登場しないことだ。女優としての才能で、母ファビエンヌ以上だったと評されることもあった伯母は、不幸な事故で若くして亡くなった。なぜ母の自伝には、彼女のことが載っていないのだろうか? リュミールは知っている。伯母は事故ではなく、自ら命を絶ったことを。そしてその原因を作ったのが、目の前にいる母に他ならないことを……。

 『万引き家族』(2018)でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督が、フランスで撮影した新作映画。フランスでロケ撮影の日本映画ではなく、フランスのキャストとスタッフで撮影された正真正銘のフランス映画だ。出演はカトリーヌ・ドヌーブ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークなど、それぞれ単独で主演映画が撮れるビッグネームたち。これは世界的に評価されている是枝監督が、フランスに招かれて撮った形だろう。映画の見どころであり、もっともスリリングなのは、ヒロインの大女優ファビエンヌのキャラクター設定。彼女には若くして死んだ女優の姉妹がいたのだが、カトリーヌ・ドヌーブにも女優の姉フランソワーズ・ドルレアックがいた。同時代を知っている人に言わせれば、「当時はお姉さんのドルレアックに人気があった」のだそうだが、彼女は交通事故で25歳で亡くなっている。映画の中ではキャラクターの虚実が肉薄しているのだ。

 物語は家にリュミールの家族がやって来るところで始まり、家族が帰国するため家を去るところで終わる。キャストは豪華だが、まるで舞台劇のような構成の小規模作品だ。僕はこれを観て、ポランスキーの『おとなのけんか』(2011)を思い出した。あちらはジョディ・フォスターやケイト・ウィンスレットなど、豪華キャストの室内劇だった。原作は舞台劇。映画の世界には、舞台劇を原作にした、俳優の芝居を見せる映画というのがたくさんある。『真実』は映画オリジナルの脚本だが(是枝監督が書いている)、戯曲原作の映画を観ているような「芝居の匂い」が濃厚に漂っている。台詞の運びといい、人物の出し入れといい、そのまま舞台劇になりそうなのだ。これはそのうち、舞台劇に翻案されて上演されるようになるのではないだろうか。日本で上演する場合、ファビエンヌの役は誰が演じるのだろうか。リュミールは誰が。そんなことを夢想するのも映画の楽しみだ。

(原題:La vérité)

伏見ミリオン座(劇場3)にて 
配給:ギャガ  
2019年|1時間46分|フランス、日本|カラー|1.85 : 1 
公式HP: https://gaga.ne.jp/shinjitsu/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt8323120/

こんな雨の日に 映画「真実」をめぐるいくつかのこと
是枝 裕和
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