帰ってきたムッソリーニ

9月20日(金)公開 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開

徹底した二番煎じが清々しい

 第二次大戦中のイタリアの独裁者ベニート・ムッソリーニ。イタリアが1943年に降伏した後もイタリア社会共和国の指導者として戦争を指揮したが、1945年4月にパルチザンに身柄を拘束されて処刑される。享年61歳。ところがその男が、突然現代に蘇る。「ムッソリーニのそっくりさん」である彼を発見したのは、テレビ局の売れない下っ端職員カナレッティだ。彼は手始めにムッソリーニを連れてイタリア中を歩き、各地で人々の暮らしや政治に対する不満の声を拾って動画サイトにアップする。ムッソリーニはあっという間に動画サイトの人気者。となれば次は、地上波テレビだ。テレビ局はムッソリーニを、毒舌のスタンダップコメディアンとして売り出す。ムッソリーニは持ち前の弁舌の才能で、あっという間に視聴者の心をわしづかみにしてしまった。だがカナレッティは自分の拾ってきた男がムッソリーニに似た芸人ではなく、本人であることに気付いてしまう。

 ティムール・ヴェルメシュの風刺小説「帰ってきたヒトラー」は、2012年に発行されるとたちまちベストセラーになり、2015年に映画化されてこれもヒットした。本作はその映画版を、そっくりそのままイタリアを舞台に翻案した作品だ。小説の翻案再映画化ではなく、映画用に脚色されたドイツ版をイタリアに移し替えている。(ハリウッド版の『リング』が、小説ではなく映画版のコピーだったのと同じだ。)違いはドイツ版でヒトラーだった主人公が、イタリアの独裁者ムッソリーニになっていることだ。それ以外は物語の構成から細かなギャグまで、ほとんどがドイツ版と瓜二つ。ドイツ版は撮影現場で一般人にカメラを向け、そこで起きる出来事を即興的に記録したドキュメンタリー風の場面が多々あるのだが、そうしたシーンも完全コピーしているのには驚いた。ここまで来るとやり過ぎにも感じるが、これは映画の吹替版みたいなものだと思って納得すべきだろう。

 日本は第二次大戦でドイツやイタリアと同盟を組んで戦った枢軸国の一員だし、ドイツやイタリアがそうだったように、日本も戦時中はファシズム体制だった。ドイツやイタリアでそうした歴史を振り返り、現代の視点から批判する映画が作られたのなら、日本もそれに倣って同じような映画を作るべきかもしれない。問題は、日本にはヒトラーやムッソリーニに匹敵する国家の代表がいないことだ。昭和天皇はそもそも政治家ではないし、戦時指導者と呼べるかどうかが疑わしい。日米開戦時の首相は東條英機だが、彼にはヒトラーやムッソリーニのような弁舌の才も強烈なカリスマ性も無い。それに戦争末期には、首相の座を降りてしまった。日本の戦争には、これといった顔がないのだ。しかし逆に考えると、そうした明確な指導者がいなくても戦争を始めるのが日本人なのだ。近い将来、日本人はこれといった顔を持たないまま再び戦争を始め、国を破壊し尽くすような気がする。

(原題:Sono tornato)

伏見ミリオン座(劇場4)にて 
配給:ファインフィルムズ  
2018年|1時間40分|イタリア|カラー|2.35 : 1  
公式HP: http://www.finefilms.co.jp/imback/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt6892340/

帰ってきたヒトラー(字幕版)
(2016-12-23)
売り上げランキング: 669

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