キング

10月25日(金)公開 アップリンク渋谷・吉祥寺にて公開

シェイクスピアの世界を大胆に翻案

 15世紀初頭のイギリス。イングランド王ヘンリー4世の嫡男ハル王子は父親と対立して宮廷を離れ、放蕩無頼の生活に身を落としていた。病身の父王は王子を廃嫡し、弟トマスに王位を継がせると宣言。しかしトマスはウェールズとの戦いで命を落とし、ハル王子は宮廷に呼び戻されて、父王の死後ヘンリー5世として即位する。だが宮廷内にはこれを好ましく思わない者たちも多い。新王に対する暗殺計画は未然に防ぐことができたが、フランスも暗殺者を送り込んで王位を脅かす。ヘンリーはフランス出兵を決めたが、信頼できる側近がいないのは大きな弱味。彼は放蕩時代の仲間だったフォルスタッフを宮廷に召し出して要職に就けたものの、こうした人事を好ましく思わない者たちの心はむしろ離れて行く。フランスに攻め込んだイングランド軍は上陸地点に近い城を落とすと、さらに内陸へと進軍。しかしその行く手には、フランス王太子ルイが率いる大軍が待ち構えていた。

 映画にクレジットはされていないが、脚本のベースになっているのはシェイクスピアの戯曲「ヘンリー四世」二部作と「ヘンリー五世」だ。シェイクスピアの戯曲は史実に材を採りながら、それをかなり大胆に改編して劇的な効果を生み出している。映画『キング』はこうしたシェイクスピアによる脚色を、そのまま劇中に取り込んでいるのだ。例えばこの映画の中で主人公ヘンリー5世の友人にして忠実な部下となる好漢フォルスタッフは、シェイクスピアが「ヘンリー四世」で創作した人物だ。ただしその役回りは、シェイクスピアとこの映画ではだいぶ異なる。他にも映画にはさまざまな歴史的場面が登場するのだが、その多くは実際の歴史ではなく、シェイクスピアが書いた場面の再解釈になっている。こうした部分を見るだけでも、シェイクスピアはじつに偉大だと思う。日本でこれに匹敵するのは、吉川英治が「宮本武蔵」で作り上げたキャラクターぐらいしか思いつかない。

 ヘンリー5世はシェイクスピア作品を通して今も人気のある歴史上の人物らしいのだが、この映画のヘンリーは織田信長に似ていると思う。若い頃は一国の跡取りとも思えぬ放蕩三昧の暮らしに身をやつし、一時は弟に家督を奪われそうになる。戦場においては多勢に無勢の戦いで、天候と最新武器と奇襲作戦で敵を倒す。主人公の力量に感服した敵の王は、自分の娘を嫁がせて両国友好のしるしとする。映画には描かれていないが、ヘンリー5世は領土統一の偉業を成し遂げた後に急死し、ランカスター朝は息子ヘンリー6世の時代に絶えてしまった。イギリス人に織田信長伝を見せると、「日本人がヘンリー5世を翻案した」と思うのではないだろうか。そのぐらい、両者はよく似ていると思う。この映画を観ると、若い頃に放蕩暮らしをした男が成長して大物になる話が好きなことに、東西の違いがないことがわかる。信長だけではない。長谷川平蔵も遠山金四郎もその同類なのだ。

(原題:The King)

センチュリーシネマ(劇場1)にて 
配給:Netflix 
2019年|2時間20分|イギリス、ハンガリー、オーストラリア|カラー|2.39 : 1 
公式HP: https://www.netflix.com/jp/title/80182016 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt7984766/

The King (Original Score from the Netflix Film)
Lakeshore Records (2019-11-01)

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