この世界の(さらにいくつもの)片隅に

12月20日(金)公開 全国ロードショー

40分の追加で前作の印象は一変した

 昭和18年の暮れ。突然申し込まれた縁談に応じる形で、翌年すずは広島の実家から呉の北條家に嫁いだ。18歳だった。夫の周作は優しく、嫁ぎ先の両親も良くしてくれる。夫を亡くして実家に出戻った周作の姉・径子が、時々すずに嫌味や小言を言うこともあるが、おっとり型のすずはそれを軽くいなしてしまう。戦争は既に始まっている。物資は乏しくなり、生活は苦しくなっていく。そんな中、お使いを頼まれた呉の街で、すずは遊郭で働くリンという女性に出会う。住む世界もまったく違う二人だったが、やがてすずは、リンと夫周作の間にあったある関係に気づいてしまうのだった。翌年、実家の兄が戦死。遠い世界の戦争は、少しずつすずたちの身近なところにもやってくる。各地から伝わってくる空襲の報道。やがてすずたちの頭上も敵機が飛び、高射砲陣地の砲撃音が響き、空襲や機銃掃射に追われる日々がやって来る。舅は空襲で行方不明になり、周作も招集された。

 こうの史代の漫画「この世界の片隅に」の映画化作品。これは2016年に長編アニメーション映画『この世界の片隅に』として公開されているのだが、製作コストや上映時間の関係で原作から割愛されたエピソードが少なくなかった。今回の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、前回の公開時に割愛されたエピソードを追加し、より原作に近い形に仕立て直している。ただしこれは「完全版」や「ディレクターズカット」ではないのだという。前作の『この世界の片隅に』は、それはそれで独立したひとつの完成作品として成立していて、今回の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、それとは別作品という扱い。確かに今回の映画で付け足されているのは前作で割愛されたエピソードだけではなく、それ以外にもあちこち細かく手を入れているようだ。その結果、作品の印象も大きく異なるものになった。これは前作の増補改訂版より、むしろリメイク作品に近い。

 今回の映画で一番印象が変わったのは、主人公すずのキャラクターの造形だ。リンのエピソードが大きくなったことで、すずと周作の関係が前作とはまったく違うものになった。これは、すず・周作・リンの三角関係のドラマであり、一人ぼっちで呉に嫁いできたすずと、一人ぼっちで遊郭に生きるリンの友情のドラマ。前作のすずは、戦時の窮乏生活を現代の我々に紹介する狂言回しで、主人公はすずの目を通して描かれる戦争の時代そのものだった。しかし今回の映画で、すずは物語の中央に、主人公としてしっかり立っている。この違いは大きい。前作ではさらりと描かれていた、すずの嫉妬や怒りや憤りといったネガティブな感情が、本作ではより細やかに描かれている。これがあればこそ、玉音放送直後のすずの慟哭がより激しく胸に迫ることになる。前作ももちろん良い映画だった。でも今回は作り手の苦労の甲斐あって、その何倍も、何十倍も、良い映画に仕上がっている。

伏見ミリオン座(劇場1)にて 
配給:東京テアトル 
2019年|2時間48分|日本|カラー|1.85 : 1 
公式HP: https://ikutsumono-katasumini.jp/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt4769824/

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中