テッド・バンディ

12月20日(金)公開 TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

殺人鬼は我々の善き隣人だった

 1980年代の終わり。エリザベス(リズ)・クレプファーは刑務所に一人の男を訪ねていた。相手の名はテッド・バンディ。アメリカで30人以上の若い女性を陵辱・殺害した、稀代のシリアル・キラーだ。「なあ、出会ったときのことを覚えてるか?」とたずねるテッド。二人はかつて恋人同士として、何年間か同棲していたことがある。出会ったのは1969年、とあるバーでのことだった。一緒に飲んだあと彼女を自宅まで送ったテッドは、シングルマザーのリズに優しく包み込むような愛情を注ぐ。幼い娘ともすぐに親しくなった。結婚こそしなかったものの、子供を含めた3人は幸せな家庭を築いていたのだ。だが1975年、テッドが逮捕されたことでこの生活は終わる。彼は前年ユタ州で起きていた女性誘拐事件の容疑者として身柄拘束され、裁判を受けることになった。「これは誤解だ。僕は無実だよ」と身の潔白を主張するテッドを、リズは信頼していたのだが……。

 テッド・バンディは実在の殺人鬼で、1989年に処刑されている。この映画は彼女の恋人だったエリザベス・クレプファーの手記「The Phantom Prince: My Life with Ted Bundy」を原作に、冷酷な連続殺人鬼の最も近くにいながら、その犯行にまったく気づくことなく過ごし、逮捕後も彼の無罪をしばらく信じていたヒロインの視点から、テッド・バンディ事件の全体像を描いていく。バンディを演じるのはザック・エフロン。爽やかなイケメン男が、じつは卑劣なレイプ殺人を繰り返しているわけだが、映画にはバンディの殺人シーンは1度も描かれない。犯行現場も出てこないし、無残な犠牲者の姿もほとんど登場しない。それはこの映画が、リズの視点から見たバンディの姿を描いているからなのだ。リズが知っているバンディの姿と、報道される凶行とのギャップ。それが次第に埋まっていくところが、この映画の怖いところだ。

 バンディは知能指数160とも言われる明晰な頭脳を持ち、ハンサムで人当たりもよく、常に複数のガールフレンドと交際していた。そんな男がなぜ連続殺人鬼になってしまったのか、という部分にこの映画は踏み込まない。この映画が描いているのは、「人は見かけによらない」という犯罪の真実なのだ。犯罪を犯す人の多くは、犯罪に縁がなさそうな普通の顔をしている。場合によっては善良な人に見えることすらある。だから近くにいる人ほど、相手の素顔に気づかない。第三者には明明白白な真実が、その真実のすぐそばにいる人には目に入らないという逆説が生まれる。これはテッド・バンディの事例に限らず、他の事柄でも同じことが言えるのではないだろうか。「あの人がそんなことをするはずがない」「被害を訴えている側が嘘をついているのだ」という話は、今もいろいろなところで聞くことができる。テッド・バンディは姿を変えて、今も我々のすぐ隣りにいるのだ。

(原題:Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile)

センチュリーシネマ(劇場1)にて 
配給:ファントム・フィルム 
2019年|1時間49分|製作国|カラー|2.39 : 1 
公式HP: http://www.phantom-film.com/tedbundy/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt2481498/

FBI心理分析官―異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記 (ハヤカワ文庫NF)
ロバート・K. レスラー トム シャットマン
早川書房
売り上げランキング: 11,144

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中