カツベン!

12月13日(金)公開 全国ロードショー

映画史に材を採った笑えないコメディ

 大正時代初期。当時の人々を夢中にさせていたのは、何と言っても活動写真。関西のとある町に、活動のロケ隊がやって来る。主演は「目玉のまっちゃん」こと尾上松之助。監督は牧野省三。物珍しげに撮影を眺める町の子供たちの中に、俊太郎と梅子もいた。撮影からしばらくして活動の上映小屋に入り込んだ二人は、映画の中に自分たちが映り込んでいるのに大興奮。「俺は活動弁士になりたい」「私は映画に出て芝居をしたい」と夢を語り合う二人。それから十年。俊太郎は偽弁士として泥棒の片棒を担ぐ日々だ。だが警察の出動で一味の首領が逮捕された後、俊太郎は泥棒から足を洗って、憧れの活動弁士を本気で目指すことに決めた。雑用係としてもぐり込んだ青木館には、往年のスター弁士・山岡秋聲がいる。だがこの頃、山岡は酒に溺れてすっかり身を持ち崩していた。青木館を支えている人気弁士は若い茂木。だがライバルのタチバナ館は、茂木を引き抜こうとしていた。

 周防正行監督の新作は、活動弁士(活弁)を主人公にしたコメディ映画。映画がまだサイレントだった頃、世界中の映画館には音楽を伴奏する演奏家たちがいた。それは日本も変わらない。日本が他と少し違ったのは、そこに弁士や解説者と呼ばれる人たちがいたことだ。彼らは映画の中の情景を説明し、登場人物たちの台詞や内面の声を語った。弁士は個性豊かな話術で人々を魅了し、映画ファンたちは監督や出演者より、弁士の名前に引かれて映画館に通うこともあったという。無声映画時代には現在の映画界では考えられないような面白いエピソードがたくさんあって、それは『雨に唄えば』(1952)、『キネマの天地』(1986)、『アーティスト』(2011)などの映画にも描かれている。しかし『カツベン!』はその中でも活動弁士の話を、地方小都市の小さな小屋を舞台に展開しているのが特徴だ。またサイレントからトーキーへの変化も、あえて描こうとしない。

 というわけで映画史的にはいろいろと興味深い点も多い映画なのだが、1本のエンタテインメント作品として観た場合、僕はこれを面白いと思えなかった。導入部がモタモタして嫌な予感がしたのだが、このもたつきは映画の最後まで変わらない。話の筋がつながっていないように見える部分もあるし、人物の肉付けに必要なエピソードや演出も不足しているのではないだろうか。例えば主人公の俊太郎と梅子の関係がそうだ。この二人はただの幼なじみなのか、互いに難からず思っている初恋の相手なのか、それとも心を通わせ合う恋人同士なのか、それすらはっきりしない。ライバル館のじゃじゃ馬娘・琴江も、何がしたいのかわからない。映画の中で一番映画について語る役目を担っている秋聲も、酔っ払っているだけでちっとも肝心なことを語ってくれない。ドタバタギャグも上滑りしていて、ほとんど笑えないのには参った。なぜこんな映画ができてしまったのだろう。疑問だ。

ミッドランドスクエアシネマ2(スクリーン14)にて 
配給:東映 
2019年|2時間6分|日本|カラー|1.85 : 1 
公式HP: https://www.katsuben.jp/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt11147106/

映画『カツベン! 』オフィシャル・アルバム (特典なし)
オリジナル・サウンドトラック 周防義和
SMD (2019-12-11)
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