家族を想うとき

2019年12月13日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

普通の人々を縛る見えないシステム

 長年建築労働者として働いてきたリッキーは、妻や子供たちに少しでも余裕のある暮らしをさせてやりたいと一念発起し、地元の運送会社と配達ドライバーの契約を結ぶ。仕事用に車を購入するのは痛い出費だが、頭金は訪問看護の仕事をしている妻アビーの車を売って用立てた。しかし車を手に入れたことで、リッキーは一国一城の主だ。仕事は朝7時から夜9時まで続く14時間勤務。仕事はきついが、家族のことを思えばがんばれる。だが家族のために始めた仕事なのに、家族と過ごす時間はほとんどない。とくに長男が反抗的で手が付けられない。運送会社の担当者は、ことあるごとに契約ドライバーから罰金を取り立てる。「あなたは従業員じゃない。独立事業者だ。互いに対等な立場で交わした契約がある。問題が起きてもうちは知らない。それはあなたの自己責任だ」。配達の仕事をはじめてから、リッキーの家族は少しずつ歯車が噛み合わなくなってくるのを感じていた。

 ケン・ローチ監督の新作は、日本でも最近増えている宅配便の契約ドライバーについての物語。独立自営業者という名前は立派だが、報酬はそれほど高くはない。労働時間は長く、会社側の決めた様々なルールに従うことを強要され、しかも事故やトラブルによるリスクは全面的にドライバー側が被るという不平等な契約になっている。雇われ仕事よりなお悪い、契約と金に縛られた奴隷的な身分だ。ここに描かれているのは、努力や誠意が報われない世界。リッキーは真面目で家族思いの好人物だ。だが一度社会的に経済弱者の立場に落ちてしまうと、もうそこから這い出せなくなってしまう。真面目にコツコツやっていても、他人の食い物にされるだけなのだ。映画の中では問題児として描かれている長男が、じつはそのことを一番良く見抜いている。どれほど真面目に、誠実に働いても、それが報われない世界。正直者が食い物にされる世界。それが若者を絶望させているのだろう。

 映画に描かれているのは、ITシステムに支配されている人びとの姿だ。主人公のリッキーは運送会社が支給する携帯型端末に、荷物の量、配送先、配送ルート、配達時間まで、すべて管理されている。この端末のおかげで、慣れない仕事に就いた彼も、他のドライバーたちと同じように仕事をすることができる。妻のアビーは、携帯電話にしばられている。契約している家庭からの電話、地元のケースワーカーからの電話、家族との連絡、学校からの呼び出し。それらの電話の向こう側にいる人たちの姿は、映画に描かれない。そのため映画の中の彼女は、電話自体に何かを命じられているように見えるのだ。しかし彼らはそれを手放せない。自分の家族も、友人も、学校の宿題までも、今はスマホの中に入っているからだ。しかしこの映画は、スマホに代表されるIT危機がダメだと言っているわけではない。これは現代人を縛りつける「見えない社会システム」のメタファーなのだ。

(原題:Sorry We Missed You)

伏美ミリオン座(劇場3)にて 
配給:ロングライド 
2019年|1時間40分|イギリス、フランス、ベルギー|カラー|アメリカンビスタ|5.1ch 
公式HP: https://longride.jp/kazoku/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt8359816/

わたしは、ダニエル・ブレイク (字幕版)
(2017-09-06)
売り上げランキング: 13,042

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中