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恋人同士が出した人生の結論は?

 高校生時代に知り合って恋人同士になった井川迅と日比野渚。だが迅の大学卒業を間近にして、渚は突然別れを切り出して離れて行った。それから8年。都会を離れた田舎町で自給自足に近い生活をしている迅のもとに、突然渚が現れる。しかも小さな女の子・空を連れて。彼女は渚の子供なのだという。プロサーファーを目指して海外に渡った渚は、そこで通訳の日本人女性と知り合って結婚。娘が生まれたが、今は離婚に向けて別居中なのだという。「どうして今さら戻ってくるんだよ。やっと忘れられそうだったのに」「俺にとって、やっぱり迅は特別なんだ」。ぎこちなく、離れ離れだった時間を取り戻していく二人。そこに渚の妻・玲奈がやってきて、強引に空を連れ去ってしまう。渚と玲奈は、離婚後の空の親権を争っているのだ。社交的な渚と同居することで、迅の生活も少しずつ変わっていく。地域の人たちと触れあう機会も増えた。渚も新しい仕事を見つけて働きだす。

 2019年に放送された、連続ドラマ「his〜恋するつもりなんてなかった〜」の後日談となる劇場版。脚本のアサダアツシや監督の今泉力哉はドラマ版から続投で、映画はその世界観を引き継いでいるようだが、キャストも一新していて映画版から観ても特に支障はないと思う。僕はこの劇場版から観たが、それで何か不自由を感じることはなかった。映画館は女性客が圧倒的に多かったのだが、これはドラマ版からのファンなのかもしれない。ドラマ版から観た方が、キャラクターの背景や主人公たちの関係性が、より深く理解できるということはあるのかもしれない。映画は恋愛映画であると同時に、現代日本を舞台にした『クレイマー、クレイマー』(1979)みたいな物語になっている。専業主夫と働く妻とか、ゲイカップルの子育てとか、道具立ては新しいが、日本もアメリカに40年遅れて、離婚した父親が元妻と子供の親権を争う映画を作ったわけだ。これは面白い。

 ただし「恋愛映画」として観た場合、僕はこれにまったく気乗りしなかった。理由をいろいろ考えてみたのだが、最大の原因はこの映画に生身の生活感や生活臭がほとんどないことだと結論づけることにした。この映画は、僕の五感に訴えてこないのだ。暑いとか、寒いとか、温かいとか、冷たいとか、痛いとか、美味しいとか、不味いとか、心地よいとか、そういう肉体的な感覚がほとんどない。例えば映画の導入部にある、渚が迅に別れを切り出す場面。この時、部屋の中は温かかったのだろうか、寒かったのだろうか。これがまったくわからない。舞台が岐阜に移った後も、野菜を洗う水道水の冷たさや、水風呂にびっくりする様子など、暑さ寒さにまつわるシーンがいくつもある。食事シーンも多い。でも残念ながらそこにある物事が、そこにある生々しい感覚として僕には伝わってこなかった。生身の肉体が感じられない俳優たちの演技は、抽象化されたただの記号でしかない。

センチュリーシネマ(劇場2)にて 
配給:ファントム・フィルム 
2020年|2時間7分|日本|カラー 
公式HP: https://www.phantom-film.com/his-movie/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt10731362/

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