マリッジ・ストーリー

ローラ・ダーンのアカデミー助演女優賞受賞作

 演出家のチャーリー・バーバーと妻のニコールは、ニューヨークの演劇界では有名なおしどり夫婦だった。だった、と過去形になるのは、二人が目下離婚に向けて準備を進めているからだ。もともとニコールは、ハリウッドの芸能一家育ち。若い頃はティーン向け映画で活動していたが、チャーリーとの結婚以降ずっとニューヨークが活動拠点だった。その彼女に、ハリウッドから出演オファーが来たのだ。短期の仕事だと思ったが、ニコールはこれを機会に生活拠点をハリウッドに移したい。一方チャーリーは長年活動を共にしてきた劇団の仲間たちと、いよいよブロードウェイに進出しようという大切な時期。とてもではないが、このタイミングで西海岸に生活拠点を移すことなどできない。これをきっかけに、長年に渡って夫婦の中で積み重なってきた互いの不満や問題が表面化する。当初話し合い離婚を望んでいた二人だが、ニコールが弁護士を雇ったことから話がこじれていく。

 製作はNetflix。今年のアカデミー賞では、作品賞・主演男優賞・主演女優賞・作曲賞・助演女優賞・脚本賞の6部門にノミネートされ、ローラ・ダーンが助演女優賞を受賞した話題作だ。ローラ・ダーンが演じていたのは、主人公ニコールの弁護士ノラ・ファンショー。映画を観ても、なぜこの役がそれほど高く評価されているのかピンと来ない面はある。しかしこの映画を物語として成り立たせているのは、じつはノラなのだ。彼女はこの離婚劇の狂言回しであり、最大のトリックスター。彼女がいなければ、主人公たちは互いがそこそこ妥協しながら、より穏当な話し合い離婚を決めていたかもしれない。だがそれでは映画が成り立たない。この映画では結婚生活の中で互いが口にも態度にも出さず、場合によっては心のうちに抑圧し、自分で意識することもなかったような思いが暴かれる必要があるからだ。彼女の出現によって、主人公たちは本音を語らざるを得なくなる。

 ローラ・ダーンがすごいのは、このノラという人物を気さくな好人物として演じきっていることだろう。たぶん本人には悪意がないのだ。それは映画に登場する他の弁護士と比較すればよくわかる。レイ・リオッタ演じるジェイ・マロッタはやり手で非情な弁護士だが、ノラと同じタイプなのは彼だ。ノラはにこやかで細やかな配慮をする「依頼人の友人」の顔の下に、ジェイと同じ狡猾で強欲な素顔を上手く隠している。アラン・アルダが演じたバートという弁護士は、実務経験豊富で常識も良識も兼ね備えているが、ノラやジェイほどあからさまに攻撃的な態度を取れないところがある。これが彼を法廷では弱者にしてしまう。こういう映画を観ていると、日本はアメリカ型の訴訟大国になれなくて当然という気がしてくる。相手に噛みつき、ぶつかり、弱点があれと見れば容赦なくそこを締め上げ、叩いて叩いて叩きのめすのがアメリカの流儀。映画を観ても、そんなことを考える。

(原題:Marriage Story)

伏見ミリオン座(劇場4)にて 
配給:Netflix 
2019年|2時間16分|イギリス、アメリカ|カラー|1.66 : 1 
公式HP: https://www.netflix.com/jp/title/80223779 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt7653254/

Marriage Story (original Music From The Netflix Film)
Randy Newman
Lakeshore Records (2019-12-13)
売り上げランキング: 205,979

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