3月6日(金)公開 全国ロードショー
ジュディ・ガーランド最後の日々
1968年。かつての映画スターであり歌手でもあるジュディ・ガーランドは、すっかり「過去の人」になっていた。舞台に出てもギャラはわずか。ついには宿泊費の滞納で、ホテルまで追い出されてしまう。そんな彼女に、救いの手を差し伸べたのがイギリスのショービジネス界だった。イギリスにはまだまだジュディの熱烈なファンが多い。子供たちと離れ離れになることからイギリス行きを躊躇したものの、経済的に困窮しているジュディにこれを断れるはずがない。だがこの頃の彼女は、精神的にも肉体的にもボロボロの状態だった。精神的には必要以上の上機嫌と不機嫌な状態を目まぐるしく往復し、睡眠薬とアルコールが肉体を蝕んでいく。リハーサルもろくにできないままステージに立ったジュディ。だが彼女は、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了する。スターの復活! 誰もがそれを期待したのだが、これがジュディ・ガーランドにとって最後の大きなステージだった。
『オズの魔法使』(1939)のドロシー役で知られる、ジュディ・ガーランドの伝記映画だ。伝記映画には2種類あって、その人物の生涯全体を長期に渡って追っていくものと、生涯の中の短い時間を切り取って掘り下げるものがある。この映画は後者だ。回想シーンとして『オズの魔法使』の撮影風景などが挿入されるが、中心は1968年から翌1969年までの1年間。ジュディ・ガーランドは映画のラストシーンの数ヶ月後、たった47年の短い生涯を閉じた。ミュージカル女優や歌手としてのジュディ・ガーランドを知っているファンとしては、映画が彼女の人生の暗くて悲惨な面にばかり注目しているのがいささか気になりはする。しかし『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)からクイーンに目覚めた人がいるように、この映画をきっかけに、ジュディのことを知る人が増えるなら嬉しいことだ。そうか、この映画が作られたのは、ジュディの没後50年なんだな……。
歌手の伝記映画では残っている本人の音源を使うのが普通だが、この映画では主演のレニー・ゼルウィガーがジュディになりきり、何曲ものヒットナンバーを歌っている。こうした方法を取った理由は、この映画が舞台劇の映画化だからだろう。原作は2005年に初演された「エンド・オブ・ザ・レインボウ(虹の終わりに)」という舞台で、これまで何人もの女優が主人公ジュディを演じ、ステージで歌っている。それを映画化するとなれば、主演女優は自ら歌わざるを得ないのだ。ここで主演女優が口パクでオリジナル音源を流用したとすれば、原作舞台を作ってきた人たちへの冒涜になる。レニー・ゼルウィガーは映画の中でジュディが憑依したような熱演を見せ、見事今年のアカデミー主演女優賞を受賞した。ジュディ本人が生前に熱望しながらついに得られなかったオスカーを、彼女を演じた女優が獲得するというのも皮肉な話。でも主演女優の努力は素直に認めなくちゃね。
(原題:Judy)
ミッドランドスクエアシネマ2(スクリーン9)にて
配給:ギャガ
2019年|1時間58分|イギリス、アメリカ|カラー|2.35 : 1
公式HP: https://gaga.ne.jp/judy/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt7549996/
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