アルプススタンドのはしの方

 7月24日(金)公開 シネマカリテほか全国順次公開

舞台劇を映画化した青春群像劇

 夏の高校野球全国大会。埼玉県立東入間高校は念願の甲子園出場を果たし、教員や在校生有志がバスで応援席に送り込まれていた。その中には、野球のルールがよくわからないままやってきた演劇部の生徒や、野球を諦めた元野球部員、ガリ勉タイプでスポーツと縁のなさそうな女子生徒なども混じっている。試合はピッチャーの好投もあって接戦だが、相手チームが甲子園常連の優勝候補とあって一瞬も気が抜けない。そんな試合を冷ややかに見ていた元野球部員の藤野は、自分が野球を辞めた理由を演劇部の安田に話す。その安田も、打ち込んできた演劇部での活動を引退するにあたって、胸の中に大きなわだかまりを抱えていた。試合は相手チームが先制。炎天下の甲子園球場応援席で、高校生活最後の夏が、悔いを残したま終わろうとしている。そんな中、試合では味方チームが相手に食い下がり、得点差を少しずつ詰め始める。そして9回。試合は一打逆転のチャンスを迎えた。

 2016年に兵庫県立東播磨高等学校演劇部のために書かれ、その後全国の高校でリメイク上演されている同名戯曲を、新たに劇場映画に仕立て直した青春群像劇。原作戯曲は映画になる前、東京・浅草九劇で商業演劇としてリメイク公演されており、今回の映画とは脚本家や主要キャストが共通している。映画はこの九劇上演版の映画化と言えるのかもしれない。舞台劇の映画化作品は山のように存在するが、その多くは映画化する際に人物やシーンを増やすなどして拡張し、舞台劇の制約を抜け出した映画らしい作品に仕立て直す。だが中には原作舞台の演出スタイルを意図的に残し、舞台劇のニオイを強く漂わせる作品もある。「舞台劇の映画化」ではなく、「舞台劇の映画版」のような作品だ。本作『アルプススタンドのはしの方』もこのタイプに属する作品で、映画でありながらあえて舞台劇にある制約を残している。カメラは常にスタンド向きで、試合風景を決して写さない。

 僕は「舞台劇の映画版」タイプの映画が嫌いではない。シーンや登場人物が制限されることで密度が凝縮し、役者同士の芝居がぶつかり合う見応えのある映画になることが多いからだ。ヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』(1954)や、オードリー・ヘップバーン主演の『暗くなるまで待って』(1967)は名作だし、最近ならポランスキーの『おとなのけんか』(2011)も良かった。『アルプススタンドのはしの方』にもそうした「舞台劇の映画版」としての面白さがある。前記したように、この映画には試合風景がまったく出てこない。それでも試合を見る登場人物たちのリアクションで、試合を臨場感たっぷりに再現してみせる。ただ残念なことに、映画ではこれが上手く生かされていない。映画にはカメラがスタンドを離れて別の場所に移動するシーンがいくつかあり、こうした自由度を持ったカメラが、あえて試合を写さないことに窮屈さを感じさせてしまうのだ。

イオンシネマワンダー(スクリーン2)にて 
配給:SPOTTED PRODUCTIONS 
2020年|1時間15分|日本|カラー 
公式HP: https://alpsnohashi.com 
IMDb:

アルプススタンドのはしの方
森 マシミ(イラスト), 籔博晶 2020「アルプススタンドのはしの方」製作委員会(原著)
小学館 (2020-08-28T00:00:01Z)

¥693

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