罪の声

2020年10月30日(金) 全国ロードショー

あの有名事件の記憶がよみがえる

 亡くなった父のあとを継いで、小さなテーラーを経営している曽根俊也は、自宅の天袋奥から古い手帳とカセットテープを見つける。手帳には英語でびっしりと文字が書かれ、カセットテープには幼い頃の自分の声が吹き込まれていた。だがそれは、かつて世間を騒がせた劇場型企業恐喝「ギンガ萬堂事件」の脅迫テープ原盤だった。なぜこれが自分の家にあるのか。事件と自分はどう関わっているのか。手帳の持ち主は、かつて家に出入りしていた伯父だ。曽根は自分と家族の過去を探るため、今は行方不明になっている伯父の過去を探り始める。同じ頃、大日新聞大阪本社の文化部記者・阿久津英士が、同じ「ギン萬事件」の真相を探り始める。先輩記者の取材メモをもとに情報の洗い直しをしていた阿久津は、ついに犯人グループが利用していた小料理屋を突き止めた。そのしばらく後、京都にある曽根のテーラーに阿久津が現れる。事件調査はそこから大きく動き出すのだが……。

 塩田武士の同名ミステリー小説を、土井裕泰監督が小栗旬と星野源主演で映画化したサスペンス・ミステリー映画。映画に登場する「ギン萬事件」のモデルはもちろそん「グリコ森永事件」だが、物語はその枠組みを借りて、背後にあるドロドロした人間ドラマを描いていく。犯人グループのドラマが中心なので、これは誰もが知っている「グリコ森永事件」によく似た、誰も知らない「ギンガ萬堂事件」として描かざるを得ないのだ。それにしてもよくできている。グリコ森永事件が起きたのは1984年から85年にかけてで、僕が高校生から専門学校に上がるぐらいの出来事だ。事件の詳細はすっかり忘れてしまったが、映画を観ているとそれをいちいち思い出す。主人公たちが事件の真相を探る旅が、そのまま映画を観る自分の過去への旅につながっていく。記憶の底に眠っていた実在の事件の記憶が、主人公たちの調査を通して、ゆっくり記憶の上層に浮かび上がってくるのだ。

 映画はふたりの主人公の調査が交差するまでが特に面白い。特に星野源演じるテーラーの曽根が、自分と家族の過去を少しずつ紐解いていくくだりは見応えがあった。出演者たちも実力のある中堅やベテラン勢をずらりと揃えていて、個々の出演シーンは短くてもいちいち唸らされるような芝居を見せてくれる。圧巻は事件関係者のひとりと中学時代の同級生だったという中年女性が、胸の内に秘めていた過去を告白する場面だろう。イスに座ったまま独白が続く短いひとり芝居だが、芝居の密度といい、回想シーンを適時挿入する構成といい、じつに見事。長い長い時間をかけても、決して癒やされることのない、事件が生み出した心の傷についてのエピソード。ここには、この映画のすべてが凝縮していると思う。映画の中の「現在」を、ちょうど平成から令和に至る年に設定したのもアイデア。昭和・平成・令和という3つの時代の物語を、親・子・孫の3世代に投影しているのだ。

ミッドランドスクエアシネマ2(スクリーン14)にて 
配給:東宝 
2020年|2時間22分|日本|カラー 
公式HP: https://tsuminokoe.jp/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt10206818/

罪の声 (講談社文庫)
罪の声 (講談社文庫)

posted with AmaQuick at 2021.01.06
塩田 武士(著)
講談社 (2019-05-15T00:00:01Z)
5つ星のうち4.1
¥1,012

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