ミッドナイト・ファミリー

1月16日(土)公開 ユーロスペースほか全国公開

いろいろと危うい民間救急隊の日常

 オチョア家の仕事は民間救急隊だ。事故があった、事件があった、病人が出た、ケガ人がいると聞けば、一目散に現場に駆けつけて、患者の救護と病院への搬送を行う。東京23区に匹敵する人口900万人のメキシコシティに、公営の救急車はたった45台しかないのだ。その不足を補うために、オチョア家のような民間救急隊が患者を病院に運ぶのだが、彼らの収入はその見返りとして患者から受け取る謝礼のみ。だが民間救急隊は行政未公認のもぐり稼業。搬送した患者や家族が「金は払わない」と言えば、それ以上の無理な取り立てはできない。患者とトラブルを起こせば、警察に逮捕されかねないのだ。民間救急隊の競争は激しい。警察無線を傍受したり、知り合いの警官からの電話連絡で現場に駆けつける必要がある。だがその患者が、料金を支払ってくれるとは限らない。メキシコシティには貧しい人も多いからだ。オチョア家の人々は、もう何日も収入が無い状態だった。

 メキシコシティで民間救急隊をしている一家に密着したドキュメンタリー映画だ。サンダンス映画祭で米国ドキュメンタリー特別審査員賞を受賞するなど、さまざまな映画祭で高い評価を得ている。海外の映画を観ることで、日本ではあまり知られない海外の事情を知ることができるが、この作品もそんな映画のひとつだと思う。世界有数の大都市であるメキシコシティの、いかにもお粗末な救急医療事情と、その隙間を埋める民間救急隊。彼らは医療現場になくてはならぬ存在として、時に重宝され、場合によっては感謝もされるが、多くの場合は軽蔑されたり嫌悪される存在になっている。その理由もわからないではない。民間救急隊の多くは、経験豊富ながら専門知識のない素人集団。救急車に専門の医療機器はほとんどないし、血まみれの患者を運んでも、事後の清掃や消毒が不十分なままだったりする。彼らは警官に賄賂を渡して情報を入手し、逮捕の危険も賄賂で切り抜ける。

 本作に登場するメキシコシティの民間救急隊というのは、戦後戦後の日本のヤクザみたいな存在だ。彼らは公権力や公的サービスが行き届かないところで活動し、それを金にして生活する人々。法と実態の隙間にあるグレーゾーンの中で、人々から求める活動するのがヤクザだ。例えば戦後に警官の数が足りなかった頃、盛り場の治安を守っていたのはヤクザたちだった。しかし公権力が治安維持活動のための実行力を持つようになれば、ヤクザは非合法な存在として目の敵にされる。メキシコシティの民間救急隊も、今後どうなることかはわからない。行政が公営の救急車を大幅に増やして、オチュア家のような稼業を一掃する可能性も高いのだ。

 なお本作は昨年NHKの「BS世界のドキュメンタリー」で、「真夜中の家族 ~密着 メキシコ民間救急車~」として放送されたことがあるようだ。また役割は違うが、日本にも民間救急隊という仕事があることを記しておきたい。

(原題:Midnight Family)

シネマスコーレにて 
配給:MadeGood Films 
2019年|1時間21分|アメリカ、メキシコ|カラー 
公式HP: https://www.madegood.com/ja/midnight-family/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt6010976/

Midnight Family [DVD]
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