あのこは貴族

2月26日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

何かと生きづらい世の中ですが

 都心の高級ホテルで毎年元日に行われる家族食事会に、ひとり遅刻して現れた榛原華子。じつは一緒に来るはずだった恋人と直前に別れてしまい、少々ばつが悪かったのだ。家族は華子の話を聞いて驚くが、その後の切り替えは早い。「なら次の人を見つけなさいよ」「年も年なんだし、あなたも早く結婚しなくちゃ」。結局その日のうちに、父の知り合いだという医者の息子と見合いすることを承諾させられてしまった。この見合いは結婚につながらなかったが、これをきっかけにして華子はせっせと婚活に精を出すようになる。そして出会ってしまったのだ、運命の人に……。義兄の会社の顧問弁護士だという青木幸一郎に、華子はほとんど一目惚れ。話はとんとん拍子に進んでプロポーズされ、華子もそれを夢見心地のまま了承。だがその直後に、幸一郎には交際している女性がいることがわかる。相手の名は時岡美紀。それからしばらくして、華子は美紀と会ってみることにする。

 山内マリコの同名小説を、『グッド・ストライプス』(2015)の岨手由貴子が脚色・監督したドラマ作品。東京都心に家を構える医者の家庭に生まれ育った女性・華子と、地方出身で都心の大学に進学した同年配の女性・美紀を主人公に、現代社会における「女性の生きづらさ」を描いた作品になっている。原作者も、脚本も、監督も、主人公も、全員が女性。強くフェミニズムを訴えるわけではないが、そうしたものも視野に入っている社会派作品に仕上がっていると思う。女性の生きづらい社会は、男性にとっても生きづらい社会だ。女性につらく苦しい生き方を強いる社会は、男性にとってもつらく苦しい。しかしより疲弊しているのは女性だろうか。つらさや苦しさは同じでも、男性はその結果として地位と名声と経済的な成功を手に入れ、女性は忍耐の末に、ほんのわずかな自尊心を満足させるぐらいのものしか手に入れられない。この社会で、男女は決して平等ではない。

 ものすごく現代的な意匠をまとっている物語ではあるのだが、これは結局イプセンの「人形の家」(1879)なのだと思う。良家の家に生まれ育った主人公が、ある事件をきっかけにして、自分が決められた役割を与えられただけの「人形」でしかなかったことに気付く物語だ。「人形の家」の主人公ノラが最後に夫を残して家を出ていったように、本作の主人公たちも男を残してそれぞれ自分の道を歩み始める。女が自由に自分らしく生きるには、「女は男の従属物であれ」という男社会のルールから抜け出すしかないのだ。男社会の決めた厳格なルールは、そのルールに疑問を持たず、そのルールを批判せず、ルールの不条理に目をつぶって生きている限り、それなりに快適なものとして女性たちを包み込んでくれる。そうでなければ、このルールが長い年月にわたって維持されているはずがない。だが華子は結局、そのルールから飛び出してしまう。そんな彼女に喝采を送りたい。

ミッドランドスクエア シネマ2(スクリーン10)にて 
配給:東京テアトル、バンダイナムコアーツ 
2021年|2時間4分|日本|カラー 
公式HP: https://anokohakizoku-movie.com/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt12440140/

あのこは貴族 (集英社文庫)
山内マリコ(著)
集英社 (2019-05-22T00:00:00.000Z)
5つ星のうち4.2
¥649

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