藁にもすがる獣たち

2月19日(金)公開 シネマート新宿ほか全国ロードショー

出てくる人たち全員悪人

 生活費と借金返済のため、ホテルのサウナで受付や清掃の仕事をしているジュンマン。彼はある日、客が置き忘れて帰った札束入りのバッグを見つける。一度は忘れ物として保管庫に入れたものの、それからは金のことが気になって仕方がない……。出入国官のテヨンは、恋人の女社長ヨンヒが失踪したことから闇金の借金を肩代わりすることになる。返済期日は迫るのに、ヨンヒとの連絡が取れない。テヨンは一発逆転の大博打を考えるが、その彼にある事件を捜査中だという刑事がまとわりつきはじめる……。投資の失敗で多額の負債を抱え、夜の仕事で働きながら、家に帰れば夫からの暴力を受けているミラン。彼女は夜の仕事で知り合った中国人の青年ジンテと深い関係になり、すっかりのぼせ上がった彼に、事故を装って夫を殺害してくれるようにほのめかす。目的は夫の生命保険金。ジンテはミランに教えられたまま、彼女の夫に向けて車のアクセルを踏み込んだのだが……。

 原作は曽根圭介の同名小説で、脚色・監督はこれが長編デビュー作になるキム・ヨンフン。原作の舞台は当然日本なのだが、映画を観ていても翻案の不自然さはまったく感じられなかった。知らない人が観れば、韓国オリジナルだと思うのではないだろうか。互いに無関係な複数の登場人物たちの物語が同時進行しながら、途中で合流して行く構成。時系列が巧みにずらされたり、入れ替えられたりしている様子も含めて、タランティーノの『パルプ・フィクション』(1994)に似ているかもしれない。映画を章分けして、少しずつ進めていく展開も似ている。ただしオムニバス映画として各エピソードを単独視点で描いていた『パルプ・フィクション』に比べると、本作の構成はもう少し凝って入り組んだものになっている。それでいて、がっちり緻密に組み上がった固さを感じさせず、ところどころ緩い。いや、これは緩すぎる。でもこの緩さが、本作の不思議なユーモアになる。

 最近の韓国映画はアクションシーンや暴力シーンで「ここまでやるか」というリアルで殺伐とした演出を見せることも多いが、この映画はそのさじ加減が絶妙だ。見せるべきところは見せている。登場人物が全員悪党なので、血なまぐさい場面も当然ある。でもそれを見せすぎない、やり過ぎないところに、作り手のセンスが感じられる。残酷なシーンや凄惨なシーンも、それを省略することでユーモアになっているのだ。映画を観終えてから振り返ると、この映画では悪党である度合いによって、残虐シーンの見せ方に格付けがなされているようにも感じる。小さな悪しか行っていない人は、その結末が比較的穏やかなものになり、大きな悪を行ったものは見るも無惨なむごたらしい最後を迎える。因果応報。それなりに倫理観の高いところを見せている。これもまた、映画を観る人を不快にさせない作り手の工夫だろう。こうした映画なりのモラル意識が、物語の結末につながるのだ。

(原題:지푸라기라도 잡고 싶은 짐승들)

109シネマズ名古屋(シアター9)にて 
配給:クロックワークス 
2020年|1時間49分|韓国|カラー|2.39 : 1 
公式HP: http://klockworx-asia.com/warasuga/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt9747594/

藁にもすがる獣たち (講談社文庫)
曽根圭介(著)
講談社 (2013-08-09T00:00:00.000Z)
5つ星のうち3.9
¥880

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中