3月5日(金)公開 TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国ロードショー
映画の売り方と構成にひっかかる
国際的に取材活動とニュース配信を行っているAN通信。だが通信社は表向きの顔に過ぎず、実態は日本に本拠地を持つ産業スパイ組織だ。諜報員は心臓に爆弾を埋め込まれており、24時間ごとの定時連絡が途絶えると爆発する仕組みになっている。鷹野一彦と田岡亮一は、AP通信でも腕利きのベテランと中堅のコンビ。彼らに与えられた任務は、ブルガリアで敵対組織に拘束された諜報員・山下の救出だった。ふたりは山下を無事救出したかに思えたが、混乱の中で山下は定時連絡に失敗し、鷹野たちの目の前で山下は爆死する。山下を拉致したのは中国人実業家アンディ・黄(ウォン)が率いるCNOXグループ。そのパーティに記者の身分で潜入した鷹野たちは、そこでかねてより面識のあるフリーランスの産業スパイ、デイビッド・キムと、謎の女AYAKOの姿を見かける。今回の事件の焦点には、日本人科学者・小田部教授の開発した新エネルギーに関する研究があった。
吉田修一の同名小説と続編「森は知っている」を原作にした、和製スパイアクション映画。国家存亡の危機とか世界破滅の阻止といった大きな話ではなく、主人公たちが産業スパイになっている点にはユニークさを感じる。だが映画を観ていても、それ以外のところに引っかかってしまって全く楽しめない。そもそも物語の設定がよくわらなかった。その理由は、これがWOWOWで放送された同名シリーズの映画版であるせいだろう。鷹野や田岡、デイビッドとAYAKO、それに主人公たちの上司である風間などは、ドラマ版にも同じ配役と設定で登場しているらしい。ドラマあっての映画なら最初からそう断ればいいのに、それを言わないから観ている方は情報不足に苦しむ。ドラマの映画版だと言わないのが、映画版から新たな観客や視聴者を引き込むための作戦なら、映画版は独自にきちんと物語の設定を説明しておく必要があったはずだ。この映画にはその両方が欠けている。
映画はふたつの物語が同時進行する構成になっている。ひとつはブルガリアでの諜報員救出作戦に端を発する、新エネルギー開発にまつわるスパイ大作戦。もうひとつは、鷹野と風間の過去に関わる物語だ。この構成が、最初まったくよくわからずに混乱させられた。やっていることは『ゴッドファーザー PART II』(1974)なのだが、僕にはこれが成功しいてるとはまったく思えない。現在と過去が対比にも呼応にもなっておらず、現在の物語の流れの中に、過去の物語をバラして埋め込んでいるだけだからだ。過去の物語が埋め込まれることに、何の必然性もない。これはかえって、今現在の物語の流れを分断し、サスペンスを弛緩させるだけではないだろうか。過去の場面は短くまとめて物語の冒頭にまとめてしまい、過去と現在の切り替え部分も、観客が混乱しないように多少の工夫をした方がいいと思う。これに比べれば、アクションシーンのぬるさは小さな傷だ。
109シネマズ名古屋(シアター3)にて
配給:ワーナー・ブラザース映画
2021年|1時間50分|日本|カラー
公式HP: https://wwws.warnerbros.co.jp/taiyomovie/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt10423106/
バップ (2020-11-20T00:00:01Z)

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